観る世界 Faile 9 「ウインダリア」と「ウイリンダリア」

「ウインダリア」というのは、わたしが書き下ろした小説ですが、その前にこの原点である物語は、映画の原作として書き下ろしたものでした。ですから、どちらが先かといえば、映像化の原作として書いたストーリーが先だとしかいいようがありません。しかしどちらにしても、わたしが原作者であることには違いありません。

これは当時、若手のアーティストが集まっていた、カナメプロというアニメ・プロダクシヨンが、映画を作りたいということで、相談に来たのが始まりで生まれた作品でした。彼らとは、「プラレス3四郎」というテレビ作品でお付き合いをしたのがきっかけで交流していたし、わたしの古代小説「宇宙皇子(うつのみこ)」のイラストを担当していた、いのまたむつみさんが、このプロダクションのスタッフだったこともあって、一気に話が進み、原作脚本を担当することになったのでした。

わたしはその時、すでに小説のネタとして、この原点である「ウイリンダリア」という話を持っていたのです。たしか世界的な流行となったヒッピーが話題になっていた頃、ある月刊誌の特集に、フランスのセーヌ川をはじめとして運河を辿って旅をする船があり、その主人公という若いカップルがヒッピーで、自由に生きようという考えから、セーヌ川へ船を浮かべ、政財界で有力な人をはじめ、社会的に地位のある人や資産家などを乗せて、運河づたいに旅のお供をしながら、料理も出すし時にはお客の希望するところで停泊して、またお客が戻って来たら旅をつづけるという、実に優雅でロマンチックな生活を提供しながら生活をしているという話が、ドキュメンタリーとして、かなりのページをさいて特集されていたことがあったのです。

その雑誌を読んだわたしは、その自由な生き方やロマンに惹かれて、いつかそんな青春物語を書きたいと思いつづけていたところだったのです。たしかその雑誌のタイトルには 、オーストラリアにあると言われている、(ウイリンダリア)という樹木に、若い二人の思いを託して書いてあったように思うのです。多少、記憶は妖しくなっていますがごめんなさい。そのウイリンダリアという響きがずっと頭に残りつづけると同時に、そこに紹介されていた、ヒッピー風の若い二人の自由な暮らしぶりが印象に残りつづけていたのでした。それでいつかこの素材を使って、書こう、いつか書こうと思いつづけているうちに、アニメーション映画の話が持ち込まれてきたのでした。

ついにそれがきっかけで、その(ウイリンダリア)の運命は大きく変ってしまったのでした。

その頃の時代の風潮ですが、人との約束を簡単に反故にするということが、新聞などで話題として取り上げられていたのです。わたしはそんな時代の風潮を取り上げて原作脚本を書こうと思いました。

海の国イサ、山の国パロが、永遠の平和を誓って交わした不可侵条約が、パロの侵略によって破られ、そのために翻弄されていく、イズゥとマリーンという二人の若い夫婦の愛の物語を書いたのです。

そのイサの国の平和のシンボルとして設定したのが、ウイリンダリアをもじってつけた「ウインダリア」というタイトルだったのでした。

戦いに出て、一旗上げて帰ると誓って去っていったイズゥに対して、新妻であるマリーンは、たとえどんなことがあっても、イズゥが戻るまでは待ちつづけますと誓います。しかし彼は、そう容易には戻っては来られませんでした。

長い長い年月をへてしまいました。

もう彼は完全に彼女のことを忘れてしまったのかもしれませんでした。しかしイズゥは必死で家へ戻ってこようとしていたのでした。

ついに青年は戻って来たのです。しかしマリーンは、彼との約束も反故にして誰かと結婚してしまっても、決しておかしくはないはずです。音信不通のまま、何年も何年もたってしまったのですから・・・。 しかしイズゥは必死で彼女の姿を探しつづけました。そしてついに彼女とめぐり合ったのです。彼女は待っていました。彼の言葉を信じて、帰国するのを待ちつづけていたというのです。ところが彼女の様子がおかしいのです。実はすでにこの世の人ではなくなっていたのです。戦争の被害者となってしまった彼女は、すでにこの世の人ではなくなっていたのですが、彼との約束を忘れずに、「いつかきっと」と思いつづけて待ちつづけていた霊だったのでした。

この映画はテレビ放送でも取り上げられましたが、関西の某テレビ局での視聴者の意識調査で、OLたちの選ぶアニメーションの第一位に選ばれ、支持されましたが、その青年の役を演じた声優さんが、古谷徹さんでいた。

彼はその時、試写会が行われた劇場での挨拶を終えて映画を鑑賞した後、スタッフルーム・・・事務室へ引き上げて来た彼は、劇場のスタッフはもちろんのこと、わたしたちがいるのもお構いなしで、大声で泣き出してしまったのです。一体、彼に何があったのか、聞き出すことはできませんでしたが、それから何年もしてから判ったことなのですが、とにかく映画に感動して突き上げてくるものを堪えられなくなってしまったということが原因なのですが、あの映画の直前に体験したあることへの思いと、(約束)というあの映画のテーマが重なり合ってしまって、号泣になってしまったということでした。

死んでもイズゥとの約束を果たすために、霊となっても待ちつづけていた、彼女の心情のけなげさに心打たれたのでしょう。

一体、古谷君に何があったのか・・・。

それは謎にしておきましょう。

しかしとにかく、その時は訳が判らずに、みな唖然としてしまったものでした。

古谷君はひとしきり泣いていましたが、やがて引き上げていきました。

素直に感動が表れる彼の純粋さが、とても好きになりました。

その後彼には、わたしの「宇宙皇子」が映像化された時に、その主人公である宇宙皇子を演じて貰いました。実にひたむきな彼の人柄にもぴったりした配役で、あの「ウインダリア」のイズゥと共に忘れられない作品になったものです。

まぁ、「ウインダリア」はこのようにして生まれた作品でした。

小説も20万部を越えるヒット作品になりましたが、オリジナル・アニメーションとしてもいい作品になったと自負しているところです。

すでに数年前には、新たにビクターからDVDになって発売されていますので、機会があったら購入してご覧下さい 。

わたしは原点の(ウイリンダリア)というタイトルの若者の自由でロマンチックなお話が、いつか書けたらと、ずっと思いつづけているのですが・・・☆

「ウインダリア」(脚本)の写真
「ウインダリア」(コンテ)の写真