観る世界 Faile 10 「アニメーション、今昔」

昨今はアニメーションが、いろいろな意味で脚光を浴びて、一大産業にまでになってきています。長いことこのジャンルで頑張ってきたわたしにとっては、大変嬉しい話なのですが、ただ手放しで喜んでいるだけでいいのかというと、それはちょっと待ってと言わざるを得ません。

かつてわたしたちは、アニメは餓鬼のものなど言われて、大変無念な思いを味わわされてきました。たしかにアニメーションがテレビで放送されるようになった頃・・・「鉄腕アトム」が登場してテレビ漫画が始まったのですが、あれはかなり科学的な雰囲気もありました、それに刺激されて登場してきた番組はほとんど低学年向きの、いわゆるマンガ番組といわれるものにすぎませんでした。「鉄腕アトム」の登場で、ちょっとは上の世代の者も興味を持つようにはなったと思うのですが、まだまだあの頃は、所詮マンガはマンガで、まず大人は見向きもしませんでした。そんな雰囲気が大勢を占めている頃に、わたしも深くかかわった「宇宙戦艦ヤマト」が登場して、マンガは動画と呼ばれるようになり、間もなくアニメーションとも言われるようになりました。その内容が、これまでのマンガ番組と言われてきた子供っぽいものから、一気にその認識を覆してしまう、画期的な作品として登場したために、これまで子供のもので他愛ないものだと思われてきたマンガ番組は、社会人にも受け入れられて、爆発的な人気を得ると同時に、社会的な認知を獲得できました。しかもその後を追うようにして、「機動戦士ガンダム」が登場してきたので、マンガから動画、動画からアニメーションと名称を変えなくてはならないほど視聴者の支持を得て、それは完全に映像の一分野としての場を、確保することになったのでした。

これからしばらくは、所謂アニメーションの番組と言うと、年少者を相手にしたというよりは、むしろ高学年向けのSF作品が全盛となってしまいましたが、それ以外にもかなり自由な素材を作品化することができるようにもなっていきました。そしてそれと同時に、番組を支えるスポンサーも、アニメーションの勢いと共に変化していって、大手の企業イメージを浸透させるものから、製菓会社、文具会社が中心となり、やがて「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」の大ヒットから、さまざまな玩具が発売されるようになってから、玩具製造会社がその担い手となっていったのでした。

ところがある時期から、俄かに若者がアニメから離れていき始めてしまいました。勿論IT時代がやって来て、世の中にはエンターテイメントの素材があっちこっちに氾濫していったために、テレビに夢中になるファンはめっきり減っていってしまったわけです。そうなるとスポンサーである玩具会社は、ターゲットをぐっと年少者に絞りはじめていったのです。いつも家庭にいて 、テレビの視聴者になり得る者といえば、こうした低年齢層に限られるからです。テレビアニメは、そんな状況から脱却できないままでいます。所謂、大人の鑑賞には堪えられないものばかりになってきています。しかしそうした低年齢層に向けた番組を放送しているうちに、それで成長した若者が多くなってきました。そのために、最近は「萌え」などいう不可思議なファンが登場してきてしまいました。これはあくまでも、アニメーションの番組が、低年齢層に向かったあたりから誕生してきた、視聴者たちで、今やそれが「アキバ族」などと呼ばれる新人類を生み出しつつあるわけで、アニメーションの黎明期 からかかわってきた者にとっては、いささか首を捻りたくなってしまう風潮ですが、しかし考えてみますと、アニメーションは、いい、悪いは別として、常に時代の先端を走っていくものなので、時にはどうしても社会人から、顰蹙を買ってしまうことも起こりがちになってしまいます。

かつてわたしが脚本陣に加わっていた、元祖の赤塚不二夫の「天才バカボン」などは、原作を利用して、執筆者が競ってブラックコメディを書いたので、学校のPTAからはそのテーマソングまで、下品だと言って批判されてしまいました。その頃のことは、別の機会にお話したいと思っていますが、しかしそれにしても・・・。

テレビ番組が、どの局を回しても同じようなものばかり放送されえいることは、昔も今も同じで、もう大分前から、わたしはそれに反対してきました。いろいろな作品が放送されるということに意味があるのですが、ある番組がヒットしたというと、あっという間に同じような番組が、各局に蔓延してしまうということが、残念でなりません。

今回、問題にしたい、テレビアニメの低年齢化ということも同じで、どの局でもほとんどのアニメが低年齢層向けになっているからなのです。低年齢層はいいとして、その上の世代に向けた作品が、もう少しは登場してくるようにならないと、どうもバランスが悪いように思えてなりません。そういった人々の観る番組は、ほとんど深夜なのだといいますが、それはいわゆるオタクといわれる人々が愛好するものであり、限られた人々にしか通用しません。現代はそのように細分化させれた視聴者にしか番組は成立しないのでしょうか。「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」のように、広く、一般の視聴者が熱狂して観る番組はほとんどなくなってしまいました。やはり連帯の時代から、個の時代へ移ってしまった、時代の空気なのかもしれませんね☆