観る世界 Faile 11 「ガッツポーズ考」

あなたは「ガッツポーズをしたことがありますか?」「ガッツポーズはいつから始まったと思いますか?」と、訊かれたら、どうお答えになりますか。

実は今年の秋のTBS系の関東ローカル放送の特別番組・・・通称特番というもので、「ご起源さん」という番組が制作されました。

そこでガッツポーズの起源を追うのですが、たまたまわたしが「ウルトラセブン」という特撮番組の中で、「セブン暗殺計画」(前後篇)を書いたことがあったのですが、その時、セブンを絶体絶命のピンチに追い込む異星人・・・地球制覇を狙う侵略者の怪獣に、「ガッツ星人」を登場させておりました。そのような関係でテレビに出演することになったのですが、拙作の中でガッツ星人は、ガッツポーズをしていないのです。

それはなぜなのかという問いかけなのです。

本来ガッツとういうのは、根性という意味で使われることが多いと思いますが、根性というのは精神的な面を言うことばであったように思うのです。ところがそれを使う場合は、ほとんどフィジカルな場合が多いようです。一時根性ドラマといって、バレー、野球を題材にしたテレビ番組が人気を得て、一般的になりましたが、その影響もあるのでしょうか、レスリング、相撲などの格闘技にもよくつかわれるようになりました。しかしどういう訳か、精神的なものであるはずなのに、たとえばメンタルな作業をする作家が、書斎の中でガッツポーズをするなどということは、あまり聞かない話です。

ところで「セブン暗殺計画」とガッツ星人のことですが、 わたしは円谷から脚本執筆を依頼された時、これまでとは違って、何とかウルトラセブンを、絶体絶命のピンチに追い込む話を作りたいと思ったのです。その意図を監督に申し出ました。もちろん監督からはすぐにOKを貰いました。

わたしはこれまで異色怪獣ばかり書いてきたので、今回はセブンを、絶体絶命のピンチに追い込むために、本格怪獣を押し立ててと思っていました。そこで当時盛んに叫ばれていたガッツという言葉を使って、ガッツ星人を登場させたのでした。

ところがある日、準備稿の段階で監督がデザイナーと協議した結果、怪獣は鳥のようなフォームになったということを知らされたのです。

これにはちょっと計算が狂いました。

しかしわたしの発想の原点である「セブンを絶体絶命に追い込んだ話にする」という基本は崩したくありません。それでは発想の原点を生かすためには、どうすればいいのか・・・。

とにかく戦い方を工夫しなくてはなりません。

ここからは決定稿を作る作業になったわけですが、監督と協議した結果、この鳥のような姿の星人を強力なものにするために 、知力をフルに発揮して、地球とセブンに迫っていく、かなり高度に知能の発達した異星人に仕立て上げていったのです。従って今回は珍しく、メンタルな面でのガッツを誇る作品にしたわけです。だからガッツ星人たちは、セブンを追いこんでも、決してガッツポーズなどというものはしませんでした。彼らはセブンを追い込んだところで、充分に知的満足を味わっていたはずです。

やがてセブンが正義を貫き、地球を守るために戦おうというガッツと、地球を守るというセブンと同じ思いで、その甦りのために、必死で降服を迫る異星人の圧迫に堪えながら努力した、科特隊員の知的ガッツによって、地球は勝利することになりますが、彼らも殊更ガッツポーズはしませんでしたが、その勝利を心から喜びを爆発させていたと思います

ポーズとして、「根性」を形として表現できるフィジカル面と違って、メンタル面では、いちいちポーズを取るようなことは、却っておかしなものになってしまいます。

かくてわたしは、またまた本格怪獣を登場させる機会を失って、異色怪獣作家になってしまったのでしたが、わたしはセブンを絶対絶命のピンチに追い込んだ分苦労した甲斐があって、いつまでも忘れられない作品になっていますし、ファンでもあるフィギュアーを作るグループから、二体のガッツ星人をプレゼントされました。わたしはそれを、大事に保存してあります。わたしにとっては、愛すべき異星人たちなのです☆