観る世界 Faile(20)「舞台で特撮をする」

こんなことを言っても、今ではほとんどびっくりする人もいないでしょう。しかしこれは20年以上も前の話で、ドリフの「8時だよ。全員集合」が全盛の頃でした。ある日デザイナーの故成田亨さんからお話があり、日本テレビで特撮を舞台でやるという話があるんだけれども、協力してくれませんかということでした 。もちろんヒーローのデザイン、敵方のデザイン、そして怪獣のデザインは、彼がやることになっているのですが、話の組み立てを私がやることになったのです。

これまで「ウルトラマン」をはじめ特撮番組は、かなりこなしてきた私ですが、舞台で特撮をということは出来るわけはないと、半信半疑でした。しかし準備はすすんで行きました。

脚本家も当時ばりばりの人たちに声をかけて集まってもらいました。

まだ、脚本をどう書けばいいのかもはっきりとしなかったので、とりあえず、これまでの脚本の書き方で、それぞれ思いきって話をまとめてもらったのです。

その間に私は、プロデゥサーと二人で、渡辺プロダクションへ主役・・・つまりヒーローの相手役のオーデションに出かけていきました。

私とプロデゥサーの前に、次々と現れてきたのは、その後大変な人気ボーカルトリオとなった、キャンディズの面々・・・ラン、スウ、ミキだったのです。

この時私は、下校してオーデションに駆けつけてきた、田中好子さんを選びました。スウちゃんでした。庶民的で、明るく、闊達な雰囲気のある彼女が、ヒーローの相手となって活躍するのにぴったりで、きっと舞台でも人気を得るに違いないと確信しました。

彼女は舞台稽古の時も、学校を終えてから、そのままセーラー服で駆けつけてきたくらいで、大変爽やかな女の子でした。

さてさて番組の全容がなかなかはっきりとしてこなかったのですが、ようやくその全容がはっきりとしたのは、何と舞台稽古の時だったのでした。それまで、どうなるのかまったく見当がつかないでいたのです。脚本の執筆を依頼した脚本家たちにも、原稿は貰ったものの、その後どうなっているのかを、説明できないでいたのです。そのくらい異例の作業だったのでした。怪獣物といえば、円谷プロが制作していた、「ウルトラマン」ということになるほどで、それらはドラマをフィルムに収めてあるものです 。

はじめからこれはショウですと言われれば、それなりに納得できたのですが、私が話を受けた時は、あくまでも特撮を舞台でやるのだという説明だけだったのです。

ヒーローの名は、ヒューマンというものでした。

彼は天空の彼方からやって来るのですが、そのための準備ができていました。つまり公会堂の天井近いところにあるコントロールルームから、舞台に向かって、ピアノ線が引かれていました。そのピアノ線を伝わって、地上を目指すはずの小型のヒューマン人形がセットされていました。

これが舞台へ到達した時には、たちまちスモークが湧き上がって見えなくなり、次の瞬間仮面をつけた人間が、ヒーローのヒューマンとして颯爽と登場ということになるのでした。

会場には子供を中心に、大変な数の観衆が詰めかけています。

彼らには、わたしが小学館に依頼して作って貰った、ヒューマンを呼ぶ合図に使う、表裏面を赤と青に染め分けた円形のボール紙に人差し指を突っ込んで、くるくる回すものを渡してありました。

市民に悪い者や怪獣が襲いかかって、危機に瀕した時には、「ヒューマン!」と叫びながら、サインを送るのです。するとヒーローは天空の彼方からやってくるという訳です。

こんな他愛ないことでも、会場の公会堂は、熱気の渦になるのでした。大人も、子供も、一緒になって楽しむという雰囲気は、滅多なことでは手に入れられません。

私はこうして、結構その時代その時代で、いろいろなことに挑戦していたことを、ある意味で誇りに思っているのですが・・・ 。今でもその時のことを思い出すと、実に慌ただしくて、必死で、楽しかった瞬間が、次々と浮かび上がってきます。今ではすべてが進化していて、別に変った試みでもなくなってしまったでしょうがね☆