観る世界 Faile(26)「学生、頑張る」

現在、京都嵯峨芸術大学メディアデザイン学科で、脚本を書くことを通して、ものづくりの基本を講義しているのですが、当初、ものを書くということなどについては、ほとんど知識もないし、実作の経験もない学生は、かなり戸惑いながら受講していたように思います。しかしそれでも、一年余の時間をかけて講義してきた甲斐もあって、徐々に学生には、ものを書くということに関して、脚本というものについての知識が浸透していったように思えます。

ストーリーを書かせても、かなり面白いアイディアのある作品が出てくるようにもなりました。

もちろん、もの書きなどということに関しては、はじめから、そんなに簡単にやれるようになるなどとは思ってもいませんでしたが、そんな中から、多少でも講義を受け持つ者として、嬉しくなるような結果が出てくるようになりました。

そこで今回は、学生の自主製作作品が完成しましたので、そのことなどについて、お話をしたいと思います。

実はメディアデザイン学部の企画として、大学をはじめ関係機関からの援助金を基にして、学生に映像を作って貰うという試みがあるということで、すでに前年度から、学生が脚本を書き、監督をするということが、実際に行われていました。

一回目はメディアアート学科の学生、漣陽子さんの脚本監督作品で、定年退職したサラリーマンを主人公にした「分別」という作品が作られていましたが、私がかかわったものとしては、今回がはじめてで、企画としては第二回作品ということになります。

まずプロットを学生たちから募集した上で、応募作品から数音のプロットを、学生たちが自主的に選考したものが、私のところに届けられました。

私はその数本の作品に、推敲するためのアドバイスをして、再度提出して貰ったのです。

その中から二作品を選んでみましたが、扱われているテーマが、学生のろろ背丈に合っているということで、最終的に作品化をするもとして選びました。

そこでそのプロットを創作した者に、脚本を執筆する準備にかかかって貰ったのです。

私はあくまでも本人の個性を尊重するほうなので、ある時点から脚本に関してはアドバイスも控えて、学生の自主的な作業にまかせました。

選ばれたのはメディアデザイン学科の羽瀬絵里奈さんの「ものけ」という作品でした。

ダンスに夢中になる母とそれを嫌う多感な少女のぶつかりを描きながら、昨今の若者に広がるニートの問題を絡ませながら、エンターテイメントとして仕上げた、かなり野心的な作品です。

脚本、監督も彼女が務め、他のプロット制作のコンテストに参加した人たちは、そのスタッフとなって協力することになったようです。

私の作業は、あくまで映像作品を制作する入口までで、あとの作業は、すべて学生の自発的な意思で完成まで進行していったわけです。もちろん近くに太秦の撮影所があるくらいですから、関係者が近くに住んでいる方も多く、プロ経験者がところどころ助言して下さったところもあったようですが、あくまでもそれはアドバイスの段階で、あとはすべて学生中心の作業だったはずです。

しかも資金が潤沢にあるわけではなく、京都市からの創造事業の助成金と、大学の芸術文化研究費などがすべてというわけで、いろいろと工夫して制作しなくてはならなかったようです。

私はその途中経過を、ほとんど知りませんでした。下手に興味を持ったり、途中経過を問いかけたりすると、却って学生たちにプレッシャーを与えてしまうことになると思ったからです。とにかく沈黙を守って、学生の自主的な制作を、遠くから見守っているという状態でした。それは実に楽しみであり、不安な一年間でした。

前回の「分別」という作品では、その主役を演じたのが大学の事務局のG氏でしたが、今回の主役は監督の親族である少女ですし、その他の中心となる登場人物は、ほとんど、メディアアート・デザイン学科の学生たちといった布陣です。更に今回は、学長をはじめ、O教授、M教授までも、テレビのコメンティターとして、広報担当のO氏もテレビ局員として出演するといった状態で、まさにオール京都嵯峨芸術学院の人材で制作された作品になっていたのでした。

それに今回は外部からの応援団として、母親役には山純さんというダンスインストラクター、群舞にダンススクールの人々も参加して下さったので、作品が大いに弾んだように思えます。

昨年は、夏休みを利用しての撮影が行われたという話も聞きます。それが今年に入って、ようやく完成となったわけです。

先日はラッシュという完成前の、荒継ぎした作品を送って貰いました。

いろいろな点で未熟な面は否定できません。

しかしこうして、みなで一つの作品を仕上げるということに意義があると思っていますし、夢中で何かに向かい、それを完成するということに意義があると思っているのです。きっと彼らは一つの作品を完成するという達成感と、その喜びを味わったに違いないと思います。そしてもう一つ、昨今、盛んに言われる、若い人のコミュニケーション不足という問題にも、一石を投じることになるのではないかと、大いに期待しているのですが、どうでしょうか。

とにかくそれなりに楽しめる作品に仕上がっているように思います。そこで、敢えてこうして、HPで紹介させて頂くことにしたわけです。

3月7、8日には、りっせいキネマフェスティバル‘09京都の共催イベントとして、廃校になってしまった元立誠小学校を利用した特設スタジオにおいて、三回にわたってその上映会が行われました。

京都以外の方々にはご覧頂けないのが残念なのですが、学生たちの、もの作りへ熱心に取り組む姿勢を激励したくて、お知らせしておくことにいたしました。

頑張れ、学生たち!

頑張れ、若者!

大いにエールを送っておきたいと思います

残念なことに、DVDは非売品ですから、多くの方に観て頂くことができないのが残念なことですが、時間のある時にでも、大学へ遊びにおいで頂いた時にご覧いただければ幸いです。

きっと、学生たちの励みにもなることでしょう

プロジェクトの黒子として努力して下さったM教授も、今はほっとしていらっしゃることでしょう。

映像作品を作るには、如何に多くの人の力が必要であるかということを、知って頂くためにも、こうしてHPへ発表させて頂くことにしましたわけです。

学生作品 DVDジャケットの写真
撮影風景の写真 その1
撮影風景の写真 その2