観る世界 Faile(33)「あと100日」
古くなったものは、思い切ってどんどん新しく変えていかなくてはならい時代になりました。
ふと、そのようなことを考えたりすることがあります。
さまざまなものが、模様替えをしていきます。
世代によっては、思い出に繋がるものが、リニューアルということで、姿が変わっていってしまう者が、かなり出てきています。
その中の一つである東京の歌舞伎座が、いよいよ今年四月で新しく生まれ変わるために、閉館となり、壊されることになりました。
そんなわけで新春興業へ行ってみることにしました。
実は私の父の友人が、菊五郎劇団の歌舞伎俳優だったことから、中学、高校、大学時代を通して、楽屋を訪ねることが多かったのです。廊下でお逢いした方々は、現代活躍中の役者さんの、祖父、父に当たるような、名優ばかりでした。
そんな方々が、出入りする花道の出入口、舞台下手の下座音楽を行うところなどで舞台を見たりしたことがあります。
演技を終えた役者が、慌ただしく引きさがってきたり、緊張して出を待っていたりする姿を、間近で見てきました。
更に、一般の方にはまったく知られない、地下にはおでん屋さんがありました。
役者さんが、ちょっとお腹を満たしたりするところだと聞いていました。観客席で見る雰囲気とは違った、緊張感のある歌舞伎座、ほっとする空間、いろいろな空気を吸って、かなり体感して育ってきました。
芝居の最中には、ご贔屓の役者の屋号を叫ぶ観客の支援が飛び交う様子も、芝居を盛り上げる光景でした。
ところが最近は、何とその越えの掛け方が下手になったことか。
他の観客にしたら、いい迷惑でしかないような声をかける者があり、逆に言えば役者の方も、演技の間を外されたり、高まりを外されたりして、迷惑になっているのではないだろうかと思うようなこともかなり感じたことでした。
しかし歌舞伎座は、わたしの思い出のすべてを、過去のものとしていってしまいます。いよいよこれからは、思い出の一つ一つが、完全に私の心の内に留まって行くだけになるようです。
歌舞伎座は、まさに青春時代の思い出の劇場の一つでした☆