知る世界 「桂川日記」(3)「有響館の紹介」

今年の春から、わたしは京都嵯峨芸術大学のメディアデザイン学科の客員教授として、東京から早朝新幹線で通っています。

桂川の河畔に建つ大学ですが、誰にも知られている渡月橋もごく近くにありますし、対岸には嵐山の景観が広がっている京都の右京です。

都会の雑踏の中で生活するわたしにとっては、リフレッシュの絶好の機会になっているのですが、好きな史跡を探検する機会にもなっています。しかし今回は大学の紹介ということなので、話を戻そうと思います。

最近はどの大学も少子化の波を被っているし、国公立大学も、独立採算制を採りだしてきました。それぞれさまざまな工夫をしていますが、中には資本にものを言わせて、派手に宣伝をして入学を誘ったり、豪華なキャンパスを誇示したりとさまざまです。ご多分に漏れず、京都の大学もそれぞれの努力は欠かせません。

今回、わたしが教鞭をとっている嵯峨芸術大学は、規模こそそれほど大きくはありませんが、それだけに却って落ち着きがあって、まさに芸大としての雰囲気を漂わせています。学生たちにも、派手さはありませんが、どこかに心のゆとりを感じさせるものがあって、純朴で、爽やかです。

大学の裏手には車折(くるまざき)神社という芸能神社がありますが、そこから五分あたりの桂川河畔に、今回紹介したい「有響館(うきょうかん)」が建っているのです。

正面の校門を入ると、すぐに右手には、図書館を前にして、桂の木が植えられていて、大変気に入っています。

設計を担当した方は、大学の教授である畏友大森正夫さんで、校舎はほとんどどの教室も、明るくて気持ちいい気配りがされていて、かなり大人数の集会にも使えるし、そのロビーも開放的な総ガラス張りで明るく、その前方に桂川が流れていて、景観を楽しみながら歓談できる広場になっています。

ここの教室には、IT関係の設備がすべて揃っていて機能的な、実に恵まれた教室がいくつもありますが、実はここの一室が、わたしが教鞭を執る教室なのですが、この方の熱意に応えようとして、この嵯峨芸術大学の新しい学科である「メディアデザイン学科」へ行こうと決心したのです。

わたしにとっては、テレビ、出版、大学と、まったく異質の世界で仕事をすることになりました。そんな中から、また新たな発見があったらと思っているところです。

わたしが使っている「有響館」という校舎は、いわゆる学校というイメージのない、実にお洒落でスマートな建物ですが、はじめて案内して頂いた時に感動したことは、何と「桂」と縁があることかということでした。前面には「桂川」が流れ、校門を入ったところには「桂」の木が植えられています。そしてそこで教鞭を執る者が「藤川桂介」ですから、まさに「桂」づくしになったということでした。

しかもこの「桂」と言うのは、わたしの好きな月と大いに関係があります。あの月の世界には、「湯津桂」と呼ばれている「桂林」があることは、古来言われていることです。

きっとここで、いい出会い、いい思い出が積み重ねられるといいなと期待しているところです。

ここまできて、片手落ちな紹介をしていることに気がつきました。器の話をした以上、中身の話をしなければいけませんでしたね。

これまで、さんざん東京のきゃぴきゃぴした・・・よく言えば洗練された若者ばかりを見つけてきているわたしにとっては、ここの生徒は、どこか思い出の彼方へ押しやってしまっていた若い人の姿と、再会するような気持ちになっているところなのです。

それに、これまで暫くの間、出会ってきた若者たちとは、まったく違った、また新たな時代を築いていくであろう、資質を持った若者たちであるということを、是非お伝えしておこうと思いました☆


写真は大森正夫氏が撮影されたものをお借りしました。

景観、桂川の写真
桂の植え込みの写真
有響館の写真
有響館ロビーからの眺望の写真