知る世界 「桂川日記」(14)「オフ・シーズン」

京都へ通うようになって、早いもので一年という月日が経ちました。

これまで東京中心の生活では味わえない雰囲気を味わいながら、奉職する京都嵯峨芸術大学へ通うのですが、講義が朝からある場合は、とても東京からでは間に合わないので、前日に京都へ入ることにしました。

前から歴史に関心を持ってきたこともあるので、長い間歴史の中心地であった京都は、実に興味深いところでもあり、これまでにも度々、必要がある時には取材で訪ねて来てはいたのですが、やはり仕事でやって来ていたので、どうしても忙しないことになってしまいます。それはこうして時間に縛られないで訪ねるようになって、本当に前は忙しなかったなと思うようになりました。 とにかく京都通いをするようになって、改めて感じることが沢山ありますが、とりわけ季節の変化と共に、町の様子が変わっていくのを知りました。

シーズンごとの伝統行事も盛んなところですから、余計に変化を感じるのですが、それに従って所謂観光事業が動くということも実感しました。

たしかに京都というところは、歴史的な遺産の多いところなので、それらを活かして、観光に力を入れているのも、頷けないことではありません。特に、桜のころの春と紅葉の頃の秋は、大変な賑わいで、大混雑を味わいます。これもここへ通うようになってはじめて感じるようになったことなのですが、絶えず賑わっている東京とは違って、通常は静かな佇まいでいる京都です。それが観光シズンともなると、一気に町の雰囲気が変わってしまいます。

わたくしのように、仕事で通う者にとっては、大変不都合なことであるということを、はじめて知りました。

新幹線のチケットを買うにも、思うようにはなりませんから、取れる時間にするしかありませんし、禁煙席にもこだわってはいられなくなってしまいます。そしてわたくしのような、翌朝の講義をする者は、宿を取るのに苦労をしてしまうのです。思うところに宿が取れないので、あちこちを転々としなくてはなりませんでした。

観光シーズンになると、こうまで姿が変わってしまうのかと、びっくりさせられてしまいました。

大体、大学へ行く一日前に京都入りをするので、わたくしはその時間を利用して、これまで行っていない史跡へ行くことにしたのですが、シーズンともなると、それも思うに任せません。ほとんどの交通機関をバスに頼っている京都では、珍しいラッシュになってしまいますし、肝心の見学したいところ、特に名所と言われるところなどは、とてもゆっくりっとは観たり、調べたりしているわけにはいきません。あっという間に出てしまうという有様で、落胆してしまうことが多いのです。同僚の地元の教授のアドバイスでは、とにかく見たい、調べたいものがあったら、絶対にシーズンははずすべきですという意味がよく判ったのでした。 秋の紅葉の季節ともなると、大学の前の桂川のほとりなどは、車の行列で動きが取れなくなるのです。バイクでさえも動けないのです。そんなわけで、地元の人は、絶対に車などでは紅葉見物などには出かけないというのです。あの自動車の利用者は、ほとんど事情を知らない他県の人だということでした。自動車などで来ても、所謂紅葉の名所と言われるところは、とても自動車では行けないところだということです。近くまで行ったとしても、それから先はどうするのだろうかと苦笑して話すのを、何度聞いたことか。

今回の報告は、どうか京都の良さを味わいたいと思われるのでしたら、是非、観光シーズンをはずして、静かさを取り戻してからにしたほうがいいということを、お勧めしたいと思います。 寺院などの襖絵の名品などを観たいのであったら、こうした静かになって落ち着きを取り戻してからのほうが、ゆっくりと鑑賞できますという地元の教授のアドバイスを、あなたにもお知らせしておきたいと思います。

京都の良さを味わいたい方は、是非、観光シーズンを避けて行かれることをお勧めいたしたいと思います。

今回は、とにかく観光シーズンと、オフ・シーズンの落差が激しい京都の様子を、お知らせすることにいたしました。お気に召したら、どうぞオフ・シーズンの静かな京都を、じっくりとお楽しみ下さい☆