知る世界 「桂川日記」(18)「橋姫」探検

学生と接触する機会が多くなってから、大変気になることがいくつかあります。すべてがビジュアルにということで、自分から努めてみようとしなくても、すべての面で見られるように与えられてしまっているということです。その結果、努力して観ようとしなくても、あれこれとビジュアルに提示してくれるものが多いので、観察力が落ちているように思います。

日常生活の中でも、多くの場合、学校と自宅の間を行き来するだけという者がほとんどのようです。つまり余暇の過ごし方にも、あまり貪欲に挑んでみようという気がないようです。極端にいいますと、大学在学中は学校と自宅間以外のことは、ほとんど知らないで終ってしまうようなのです。家へ飛んで帰って、何をするのでしょうか。それほど研究のために、その調査などにお時間を費やしているとも思えません。ゲームでも楽しむのでしょうか。

わたくしの関係する京都などには、歴史に関することだけでも、かなり興味深いことが伝えられているので、そんな中で謎めいたことを探究したら、かなり面白いと思うのですが、大体歴史というものにも関心を持つ者が少ないこともあって、ほとんど挑戦する者も現れないし、楽しもうという者もいないように思います。目先の興味に引き付けられて、古いものには、まったく興味をしましません。つまりそんなことから、目の前にあるものに関してはよく知っていますが、想像したり、推理しなくては、その真相に迫れない歴史的なことに関しては、一番苦手なことで、どちらかといえば、避けて通りたい気持ちでいるに違いありません 。

そんなことが原因となるのでしょうか、観察力や、推理、推察力が極端に狭量になってしまっています。とにかく見えているものしか理解できないということは、実に悲しいことです。

少なくとも、もの作りにかかわろうというのであれば、想像力が豊かでなくてはなりません。しかもその想像力を支えているものは何かというと、少しでも多くいろいろなことを知っておくということです。つまり知識を豊かにしておくということです。そうでないと想像力を発揮するということはできません。どうも昨今の若い人は、そういったことでの探究心に欠けているようです。特に現地へ行って調べてみようというような努力を怠るようです。大学と家庭の間を行き来するだけというのでは、とても寂しいことです。

そんな中でちょっと嬉しいことと出会いました。

四月上旬のことですが、わたくしは授業を終えた翌日のこと、わたしは宇治の平等院を久しぶりに訪ねてみましたが、そのついでに、同じ近鉄奈良線にある、伏見稲荷を訪ねて行ったのですが、そこで思わぬ出会いがあったのでした。

私が目下指導している女学生が、二人でやって来ていたのでした。

若い人が、わざわざこんなところへはやって来ないだろうと思っていたのでびっくりしたんですが、二人は授業のない余暇を利用して、なるべくこうした史跡を訪ね歩いているのだということでした。

中にはこういう余暇の過ごし方をしている者もいるのだなということを知って、大変嬉しくなりました。学校からまっすぐに帰って、ゲームに興ずる者が多いと言われている時代ですが、中にはこうした余暇を過ごす若者もいるのです。そう絶望することはないと、改めて思いました。

もちろん次の授業のときには、その時の話を披露して、多くの学生たちに、余暇の過ごし方について啓蒙しておきました。 実は今回のお話は、そのことが本題ではないんです。宇治の平等院と同時に、ここの宇治川にかかった橋に関するなぞめいた話があったからなのです。

これは私が古代を背景にして小説を書いていた頃のことですが、この宇治川に架かった橋の中央部に変わったところがあるということが書いてあったのを思い出したからなのです。

つまり写真にあるように、出っ張ったところが作られているというのでした。実はそこに、川を守護する神・・・橋姫を祭ってあるんだというのです。私の興味はそれだけだったのではありません。実はその橋姫が同じ水に関係のある、京都の貴船の神と結びついて、極めて恐ろしい神に変身してしまったからです。いやな奴との縁切りをする時に、願掛けをする対象になってしまったということなんです。

貴船の裏山には、現代でも藁人形に釘を打って呪いをかける者がいるということが言われていますが、そんな伝説とも関係づけられ手言ったのでしょう。現在は橋姫神社は、近くに移されていて、何も知らない家族連れが、かつて神社の祠が作られていた橋の出っ張ったところへ入りこんで、大はしゃぎをしていましたが、とにかく大学での授業をし終えた時には、必ずどこかを探訪してみることにしているのです。

現在は橋姫神社も、そういった不気味な伝説を払拭しようということでしょうか、あまり表立っては取り上げないようにはなっています。それだけはお伝えしておきたいと思います。

目下久しぶりに、書きたいものがあって、その下準備もかねているのですが、ひょっとしたら、京都のどこかで出会うことがあるかも知れません。☆

謎の宇治橋の写真