知る世界 「旅雑記」(17)「宮古の妖怪」

沖縄へは何度も取材を含めて通いましたが、その中でも忘れられないのは、それまで大して世間的には認知されていなかった 、キジムナーという妖怪を、一気に人気者にしてしまったのは、拙作「宇宙皇子(うつのみこ)」という小説がきっかけであったことは、間違いがないことです。それまではほとんど話題に乗るようなことはありませんでした、そのキャラクターがかなり愛嬌があったことから、一気に注目を浴びて、知名度を上げていってしまったわけです。特にそのピークがやって来たのは、シリーズの中でも、「愛しき太陽(テダ)に死す」という、沖縄を舞台にした話の時でした。もちろん主役は宇宙皇子でありその相手役の各務でしたから、キジムナーというのは、サブ・キャラクターにすぎませんが、作中ではそれでもかなりの居場所を見つけてしまったようでした。

まだ現代のように、科学が発達していない時代であった、古代では、とにかく不可思議なものが現れたり、飛び回っていたりしていましたが、沖縄の宮古島にも、不可思議な妖怪が存在していることに気がつきました。

所謂人間関係の軋轢、葛藤などから生まれた、怨霊、もののけなどというものとは異質のもので、時にはその風貌と接しているうちに、親しみさえも感じてしまいそうになってくるものもあります。

すでに大分前に、「シギラの月」という小説の取材のために、何度も訪れた宮古島で、発見した妖怪がありました。一説には鬼神ということも言われています。

その名はパーントゥというものです。

これは決して、これまでの常識で言われている霊のように、災いをもたらしたり、悪霊を呼んでしまったりする、おどろおどろとしたものとは違って、いささか冴えない妖怪です。

冴えないなどというと、彼に叱られそうですが、その風体は泥だらけというものなのです。

1993年には、国の重要無形民俗文化財に指定されているという由緒正しき妖怪というわけです。

その親子と思われる三匹のパーントゥは、集落へ現れて練り歩き、新生児や子供、新築の家、車などへ、いささか匂いのきつい泥を塗りつけていくのです。

その結果、健康や、商売繁盛を約束したりしてくれるようですが、祭に参加して、彼らに捕まった者は、みな喜んで、顔はもちろんのこと、手足にも、泥を塗りつけられてしまいます。

この日ばかりは交通整理の警察官も泥塗りの犠牲になってしまいますが、誰も文句は言いません。何といっても「福を呼ぶ泥」なんですからね。

宮古島の島尻には、古い時代には、不可思議な霊能力を持った集団がいたということもあって、現地にはその遺跡と思われるものがかなり残っています。中でも興味を引くのは、海賊の拠点と言われていたところです。中国から持ち出してきた、さまざまな陶器・・・中には国外への持ち出しを禁じられていた黄磁といわれる皇族の持物も、海岸に近い山地の遺跡から掘り出されたことがあるそうで、そうしたものを、この宮古の有力者と取引を行っていたということが窺えます。しかもそれは新月の夜と思われる「ウンナフカの夜」といって、島を闇が支配する夜に取引が行われたらしいという説も残っています。しかもこの日は、島民たちも、一切灯りをつけてはいけないし、外をのぞいてもいけない日になっていたのです。島民に対する理由は、その夜は神がやってきて、種まきをしてくれるからだということになっていたようです。恐らく権力者たちは、そんなことを言って、闇取引を島民たちに知られるのを阻んでいたのでしょう。

海賊たちもそのあたりに拠点を気づいたのは、岸へ辿り着くのに、よほどの海路に熟達した者でないと岸へ辿り着けない難所だったのです。これならたとえ彼らが官憲に追われても、ここまではとても追っては来られないという、自信があったからでしょう。沖縄本島から、更に300キロも離れている都路魔というところは、まさに海洋活劇の舞台として、申し分のないところだったのでした。

パーントウなどいう妖怪が現れたり、海賊が暗躍したりと、実に興味深々の島なのですが・・・。一度歴史探訪に行ってみませんか☆

宮古の妖怪“パーントゥ”の像の写真
古代の民家の写真
伝統工芸館館長取材の写真
博物館長に取材の写真 その1
博物館長に取材の写真 その2