知る世界 「旅雑記」(28)「町の片隅に歴史あり」3

いつも歩いているところ、いつも通っているところというものは、どうしても特に関心を持つということもなく過ぎてしまうものです。

その典型的なところが、皇居前ではないでしょうか。

少年時代から、そこはあまりにも知られているところであったし、現在でも厳然と存在しつづけているところです。

観光バスも毎日何台もやって来て、沢山の観光客を案内して二重橋へ向かって行きます。

かつては島倉千代子の「東京だよ、おっかさん」という歌にあったように、孝行娘が田舎の母親を案内する時に、必ずやって来たのが、「靖国神社」と皇居のある「二重橋」でした。このあたりにも、毎日観光客がやって来て賑わっていました。これはまさに戦後の時代を象徴するこうけいであり、歌でした。今はそうした光景が嘘のように、静まり返った空間になっています。

戦後は長いこと、皇居前広場は若者・・・特に恋をするカップルのたまり場でした。あちこちに置かれたベンチには、沢山カップルが集まっていて、遠慮なく熱い光景を繰り広げたりしていました。そのためにかなり世間から、顰蹙をかったこともありました。しかし今は、そうした若者たちの関心も薄れてしまったのでしょう。静かな佇まいとなっております。

今は、外国人の観光客と、熟年夫婦の散策にやってくる者が中心か、その周辺の堀端を走る、マラソン愛好者の姿を見かけるだけという光景に変わりました。

実に、のどかなスポットになっているのですが、わたしもこれまで、改めてここへ来たことはありませんでした。

そこで今回は、ふらっと散策をしてみようと決めました。

実に気まぐれな計画でした。

バスに乗り、地下鉄に乗り、ぶらりぶらりと歩きました。

もちろん広場は昔のような恋の花盛りなどというものもなく、静かなたたずまいを見せていました。

しかし残念なのは、地方からの修学旅行生の姿も見かけないことです。この広場の一角には、そのあたりの説明を書いた掲示板が作られているのですが、もちろん都民も滅多なことでは、その告知を見たりはしないでしょう。

恐らく彼らは、渋谷、原宿、表参道あたりへ行って、東京デズニーランドへ行くのが定番になっているのでしょう。そんな中で、静かかなこの空間を利用して楽しむ者もいるのですが、どこにも 困った人はいるもので、二重橋近くの広い空地には警備の警官がいるというのに、まるでお構いなしで、まるで花見でもをするかのように、宮城を眺めようというのでしょうか、敷き物を出して座り込んでいる者が現れます。

もちろん直ちに警官がすっ飛んで来て、排除していましたが、私も写真を撮って、ただちに二重橋からは退散。桜田門へ向かうことにしました。

実は暫く前に、静岡県へ行った時に、桜田門外の変で暗殺された、伊井大老一族の墓へ参ったこともあったのですが、思わずその水戸藩士たちによる変事の現場へ、行ってみたくなったのです。

しかしこの門を出ると、まるで変事は許さないと言わんばかりに、警視庁庁舎のビルがあり、その周辺には裁判所があり、法曹会館があり、そのはるか彼方には、歴史の面影をまったく感じさせない、近代ビルが林立する都会の風景が望めます。歴史と現代が、奇妙なバランスで存在している東京のド真ん中の風景です 。京都のように、かなり残っている歴史史跡と現代都市としての建物のバランスとは、かなり違ったものがあるような気がしました。

歴史を大事にして、それを観光の基本にしている京都とは違って、東京はまさに、激しい時の流れに翻弄されながら、常に姿を変えていくところなのですね。過ぎ去った歴史に目を留めるよりも、これから訪れるであろう新たな歴史に、注目しつづける街なのですね☆

高札の写真
二重橋と大手門の写真
桜田門の写真
桜田門石碑の写真
堀から望む丸の内の写真