楽しむ世界 Faile 10 「ひとくち古代史考」(市女笠)

お洒落といえば女性の独占物かと思っていたら、昨今は男性もなかなかのもので、化粧品まで男性専用のものも発売されています。しかしそれはまだまだ限られた人のもので、とても一般的な話ではないでしょう。やはりお洒落といえば、女性の専有物ではないでしょうか。

都会には次から次へと、海外のファッションブランドのショップが開店していきますが、いつも店内はかなりの数の女性群が出入りしています。景気が上向きという話もあってか、昨今の女性はファッションに目のない存在であると同時に、かなり贅沢な好みのようですね。人とは一味変ったものを着たいとか、持ちたいという欲求は、誰にもあることですが、こういった傾向は、どうも現代特有の現象ともいえないことを知りました。

平安時代のことなのですが、朝廷は町に東市、西市を作って、貴族も町民の分け隔てなく買い物ができるようにしました。やはりこうした盛り場は、興味深いもので、高貴な方も平民も、かなり出かけて行ったようでした。もちろんすべての人が物を買うというわけではなく、中にはウインドウショッピングではありませんが、店の前に出された品物を眺めていくだけという人も、かなりいたはずです。しかもこういう盛り場では、今も昔も変わりがないようで、さまざまな風俗でこれ見よがしに、自慢のファッションで出没する人があります。まぁ、どちらかというと、それは対抗心の旺盛な女性が、多かったということの証拠ではないでしょうか。もちろんこうした盛り場には、買い物をしたり、散策をする者たちだけが集まるとは限りません。そこでは博打・・・双六などに夢中になっている男たちも現れる始末だったのでした。中には負けてしまった者が、着物はもちろんのこと、馬、家を取られてしまうことも起こったという記録もあるようです。

とにかくどんな時代であっても、女性がこのような買い物をする場所を拒否するわけがありません。高貴な貴婦人達は、侍女を引き連れて買い物を楽しみにやって来たようです。そんなところへやって来たのは、大原の里あたりからやって来る花売りや、物売りたちでした。この女たちが被っていたのが、市女笠(いちめがさ)と言われる被り物だったのです。

ファッションに目がないことでは、今も昔もありません。この市女笠に目をつけたのが、下女ではなく、高貴なご婦人たちだったのでした。

人とはちょっとでも変った風俗をしてみる・・・冒険をしてみることが、人よりも目立つコツであることは、現代も古代もありません。女性は充分に知っているはずです。

「あら、あれは、珍しいかぶり物ではないの」

本来は、ごくごく身分の低い商いをする女の風俗です。

その真似などしていいのかと、侍女などにたしなめられるのですが、一度いいと思ったら諦めるはずはありません。

洗練された貴族の風俗とは違って、大胆で、とても上品とはいえない庶民の風俗は、妙に高貴な婦人たちの目を引き付けてしまったのでした。そして間もなく東西の市には、高貴な婦人が花売りの女が被っていた笠を、誇らしげに被って現れたのでした。

「まぁ、あれは・・・」

たちまちその粗野な魅力は、高貴な女性たちを虜にしてしまったのでした。たちまちそれは平安の巷を席巻するほどになってしまったのでした。そしていつの間にかそれは、男性にも影響が及んでいって、雨笠だといって使うようになっていきました。 いつの時代も女性はファッションリーダーであり、男性もいつの間にか引きずられていってしまうようですね☆




注 図版は吉川弘文舘刊「国史大辞典」を使いました。

市女笠(女性用)の図版
市女笠(男性用)の図版