読む世界 Faile 7 「イラストの変化」

わたしは出版で仕事をするようになってから、まず改革しようと思ったことは、イラストの扱いということでした。

それまでイラストと言うと、小説のほんの付け足しに使われていましたし、内容の象徴的なところに、ごく限られた数だけ使われているといったことが多くて、あくまでも小説を邪魔しないように使われていました。時にはまるで芸術作品を楽しむといった感じで、重々しく使われているといったものもあったように思います。しかしいずれにしても、小説の作品においては、それほど大きな役割を果たすようなことはありませんでした。

わたしは生まれ、育った家庭の環境・・・父が大変書画の鑑賞に興味を持った人であったことと、趣味で日本画を描いていたりしていましたから、かなり小さな頃から、絵画というものに接する機会に恵まれていましたので、知らず知らず書画への関心が高まっていたということなのです。

父は世界的な版画家の棟方志功さんとお付き合いがあって、わたしも何度もお会いして、お話をしたことがありましたし、荻窪の棟方さんのお宅へも伺ったりしたこともありました。もちろん父に連れられて美術館へも、よく通ったりもしました。そんな習慣が身についてしまったのでしょう。自分では書けないのですが、絵画には大変興味を持ちつづけていたわけです。

青春ドラマが書きたくて、放送界へ入ったのですが、間もなくドラマからアニメーションの世界に転身してしまったので、結局絵というものと切っても切れない世界へ入っていってしまったというわけです。

芸術作品は別として、大衆作品における絵・・・出版におけるものはイラストと言われるものは、その時その時の時代の要求と無縁ではいられません。放送界はもちろんのことですが、出版界も時代の要求は敏感に受け止めます。

そんな中で仕事をしてきたわたしは、ある頃から、アニメーションの絵とか、小説のイラストの絵に描かれた人物に、はっきりと前時代とは違う表現が行われているのに気がつきました。

全体的に主人公とかヒーローなどがクローズアップされることが多くなりましたが、その顔の表情に変化が現れました。

もう、お気づきでしょう。

ある時代から、メイン・キャラクターの顎がなだらかな、どちらかと言えば婉曲だったものが、かなり激しくとんがり顎になってしまったのです。

これは日本人の食生活が、米食からパン食に変わってきたことによるということが、指摘されています。つまり咀嚼力が減少して、顎に負担がかからないことから、だんだんとんがった顎になってきてしまったというのです。書籍のイラスト、アニメの絵も、それぞれ時代の姿を写しているという点で、かなり興味深いものがありました。

記憶を辿ってみますと、ある日若い編集担当者がやって来て、数枚の絵を見せました。わたしはなるべく若いイラストレーターを、登用してあげようという意図がありましたので、新しい文庫の歴史作品のイラストにも、新人を発掘して使ってあげようという提案をしていたのです。しかしその時に見せられたイラストの人物を見て、正直な感想ですが、愕然としてしまいました。主人公となる人物の顔の一箇所が、妙に目立つのです。つまり、極端に尖がっていたのです。つまり顎の形が、これまでの日本人のそれとは、あまりにも違い過ぎたからだったのです。

判断にしばらく時間を要しました。決断がつかなかったのです。しかし最近は、そういう書き方をする人が増えてきたし、そうしたキャラクターに人気が集まっているという説明を聞いて、ついに編集部推薦のイラストレーターの採用を決断したのでした。

体形の表現も、時代によって変化していくということを、小説を書くという実作業の中で感じていったのでした。

記憶に残る思い出です。

そこで今回は、小生のかかわった出版、映像作品の中から、代表的な作品・・・というよりは、そのイラストや絵の特徴的なものを選んでみましたので、ご覧いただければ幸いです。確かに変化してきているように思いますが・・・。

またいつか、すっかり主人公の顔形が変わってしまう時代が、やってくるのでしようね。そんな興味を持ってイラストをご覧になるのも面白いかもしれません☆

エイプリルシャワー物語の写真
月の帝の物語の写真
ウインダリアの写真
トライアングルミッションの写真