読む世界 Faile(29)「時代を作ったいやな奴」」

いつの時代にも、必ず活躍するヒーローというものが現れる。 わたしは古代に興味を持っていることもあって、飛鳥、奈良時代に活躍した、物部麻呂という人物に大変興味を持っている。もちろん小説化しようと、材料を集めているのですが、かつて「宇宙皇子」という小説を書いている頃に、ある先輩からフランスのフーシェという男について、調べてみたらどうかという進言を受けたことがあったのです。

その後角川書店で、「幻想皇帝」というフランス革命前夜の話を基本にした小説を書いていた時、私はこのフーシェという男を登場させたのです。

フランス王朝の貴族たちの間で、貴婦人たちを操りながらのし上がっていくさまが、手に取るように判って、調べれば調べるほど面白くなってしまったのでした。

しかしそれからしばらくして、その連載小説が中断せざるを得なくなってしまったために、そのままこの怪物のような大物のことは封印していたのです。そしてふたたび日本の古代の探索をしていたのですが、そこで出会った物部麻呂に惹かれ始めたのです。当時のそして彼のライバルとしては、藤原不比等がいますが、揃って頂点を目指しながら、終始一歩下がって、やがて時代を支配するようになったのですが、それとは対照的に、頂点へ登りつめてしまったのです。そして間もなく麻呂は、奈良へ遷都する時に、哀れにもどんどこへ突き落されてしまったのでした。 その時から、この男とかつて出会ったフーシェについては、何処か共通点があって、どうしても切り離せない関係になってしまったのです。

その共通点とは何なのか。

それはとにかくダーティな悪のイメージだということなのですが、しかしそれなのに、権力社会において、一気に頂点へのぼりつめて行ってしまったということなのです。

しかも彼らは権勢を誇り、時代を支配しながら、人の心までは支配出来なかったようで、最後は大変みじめな終わり方をしているのです。

やはり権勢をほしいままにするといっても、手段を選ばずということでは、その栄光は長つづきしないという例だというしかありません。

出世のあり方というものについて、一石を投ずる話だと思って、執筆前に公開することにした次第です☆