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ものごころつく
 まず、「ものごころ−物心」とは。 物の本には、「人情・世態などを理解する心」となっている。砕いて言うと、人が本来持っている心の動きや、世の中のありさまがわかることだ。ちなみに物の本とは広辞苑第二版(古いなぁ)である。 しかしながら、この語は多く「物心がつくころ」として用いられ、「想い出せる一番最初のころ」といった意味をもたされることがほとんどである。
 
 さて、作中でアルファさんは「私が物心ついたときには」と言っている。 さらに、その前後の話から、物心つく前からカフェ・アルファ(初瀬野家)にいたこともわかる。 つまりこうだ。
  • 彼女には「物心つく前の状態」が存在した。
  • 初瀬野家での育成は本当にごく初期から行われていた。
 彼女が、開発関係者も驚くほど成長したことは周知の事実だが、まさか「物心つく前」の状態が存在していたとは私も驚きである。
 
 では、物心つく前の彼女とはいったいどのような状態なのだろうか。
 
 人間の場合はおよそ3〜5歳程度までの、世界は『自分+母親(役)+それ以外』でしかない頃で、この頃のことを想い出せる人はあまりいない。 これは、その頃は脳内の情報の蓄積も少なく、それを整理・活用する力もないためだが、なによりも「生存」が優先されるためである。
 
 しかし、ロボットである彼女は生まれて何年もそんな使い物にならない状態が許されるのか?
 いやまて、試作機なんだからそれもありかもしれない。
 そこでいくつかシチュエーションを考えてみる。
 

 
 仮説1:計画的にゼロから育成
   「A7に知識と知恵を与える方法として、人間の幼児と同様に、ほぼゼロの状態から実際の生活を通して、それらを獲得させる手法が採られた。」
 
 この場合、他の2体の量産試作機には別の手法が採られた可能性が高い。また、量産機にはここで得られたデータ(脳内に蓄積された情報の基本構造やその活用シーケンスなど)を適用し、生まれてすぐに十分な活動が行えるようにしたと思われる。
 なお、育成当初の彼女の行動は、人間の幼児のそれと同様であろうから、現在のボディでは不都合が生じる危険性がある。老化はしないが、幼児または少女の別ボディがあったことは否めないかもしれない★1
 
★1 成人ボディへの記憶の移動は(謎の)イメージインタフェースを活用するのか。 その後、移動前のボディをどうするかは怖い話。 また、人間の意識を持つためには人間のカタチをしている必要があるため、犬猫やただの箱のようなボディは不可である。
ところで、第11話「プロテイン」で彼女が見ていた夢の中の自分は、デフォルメというよりも子供といえよう。あれは想像であったのか、経験であったのか...

 仮説2:偶発的にゼロから育成
   「本来はある程度の知識・知恵を持った状態で生まれてくる、または出荷時までに与えられるはずが、何らかの理由により、それらを持たない状態で初瀬野家に渡ってしまった。 もしくは、彼女がそれら(一番最初の記憶)を失ってしまった。」
 
 わずか3体しかない量産試作機が、計画から外れて人手に渡ってしまうというのは、計画自体の遂行が困難になったことを意味すると考えていいだろう★2。 すなわち、A7の開発は一時的に頓挫したのである。 そのときに流出した未完成のM2が、流れ流れて初瀬野家に渡ったのだ。 そして人のよいオーナーに慈しまれて、(精神的に)赤子から成人まで育つことになる。 なお、この場合、初瀬野家はA7開発には無縁であったということになる。
 
 また、記憶喪失というのは都合のいい話だが、彼女が生体脳を持つとすると、物理的な脳細胞の欠損を除いて完全に忘れてしまうということは基本的にあり得ない。 想い出せないのは、想い出したくないからにほかならないだろう。 彼女になにがあったのかは不明だが、それにより個体としては計画から外れてしまい、オーナーに予後が任せられた、と考えることができる。 この場合オーナーは、開発関係者あるいはその知人であり、医療関係者でもある可能性が高い。
 
 ただし、彼女が機械脳を持つとすると、リセットスイッチだけでおっけーである★3。 しかしその場合は、記憶の再生も比較的容易だろうし、育成に関しても仮説1の方をたどることになるだろう。
 
★2盗み出された可能性もあるかも。
★3お話的には全然OKじゃないけど。

 仮説3:偶発的な物心の獲得
    「本来のスペックの彼女は、人情・世態とは無縁のメイドロボットであったが、何らかの理由により物心がつくに至った。」
 
 彼女は本来、人の命令を聞くだけの、自発活動を行わない召使い的な存在★4であったが、おそらくはオーナーの影響により少しずつ変わっていき、ついにはココロを獲得できたのではないか。 これはもちろん当初設定された機能ではないが、奇跡というわけでもなく、「ひょっとしたらそういう事もなきにしもあらず」程度の可能性ながら、発現する素地はあったのではないかと思われる★5
 
 では、作中に登場しているすべてのA7は特別な存在なのか。
 これは後に生まれたココネを見ればわかる。 量産機である彼女は最初、研修所に行き、その際に自分の名前を考案している。 これは明らかにアルファの場合とは異なる。 ココネは最初から物心はついていたのだ。 それはもちろんM2までの研究成果が活用されていたことによるものだろう。
 
 またこれは、M2まではギャンブルだったことを意味するわけで、作中に登場していない他の2体の量産試作機は、ココロを獲得していないおそれもある。
 
 なお、オーナーは開発関係者だったか、その知人で発現の可能性を示唆されていて、そうなるように努力したのかもしれない★6
 
★4「乙女回路の無いマリオネット」といえばわかりやすい人もいるかな。
★5例えば生体脳を与えられていたとか、食事が必要とか。
★6エイエンの哀しみをわざわざ与えるようなことをして、残酷なヤローだと思われるかもしれないが、私はやっぱり心は持って欲しいと思う。「老化しない」参照
 
 

 
うんぬん 
 云々...
 
 では、どれが一番可能性が高いか。
 
 ここで考慮するのは彼女の名前である。 「アルファさんって呼ばれてて、それが名前になっちゃった」と彼女自身が言っているから、物心ついてからアルファさんと呼ばれ出したか、物心つく前の記憶があるかのどちらかである。 いずれの仮説にしても物心つく前からアルファさんと呼ばれていたことは想像に難くない。 だが、仮説1,2ではその頃の記憶はあるまい。 唯一仮説3ではその記憶が残っている可能性がある。
 
 仮説3か?
 
 いや、後にオーナーにそのあたりの事情を聞いただけだとしても、彼女から先ほどのセリフがでてくることは十分に考えられる。
 
 つまり決め手がないのだ。
 
 いかん、今回は仮説の域を出ないぞ。
 
 A7の過去話なんてほとんどないんだからしょうがないか。 もう少し開示されるまで保留ということにしたい。
 
 
 ところで、物心つく前のアルファさんの食事や着替えとかの世話って...
 
 なお、ページの性格上、過去話が強調されていますが、第57話の主題は、”とまらないアルファさんの時間”であることに留意してください。
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