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[ 第3話 ]

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2062年:ココネ
 
       気の良さそうなおばちゃんが数人、ドアをくぐってくる。
 
 左胸で合わせる白衣で、なぜかみんな小太りである。
 
 当然無口ではない。
 
 「まだ9月だってのに今年はこの子達で終わりなんだって?」
 
 「マテリアルの生産が追いつかないんだからしょうがないでしょ。」
 
 「第3施設が沈んでもう半年もたつのにねえ。」
 
 「この間ようやく再建のめどが立ったとか言ってたわよ。次長さん。」
 
 「そりゃいいわ。」
 
 「まだ千人ちょっとでしょ。それじゃ寂しいわよねぇ。」
 
 
 こんな中でもリーダー格の人がいるようで、鶴の一声が入る。
 
 「さっ、始めましょうか。今日は最後の26人よ。」
 
 
 「ここは26人だけど、男の子の方は後5人だけなんだって。」
 
 「去年も少なかったわよねぇ。」
 
 「そう言えばねえぇ、...
 
 こうして実際に作業が始まったのは15分後であった。
 
 
  アルファ
 ここはAプロジェクト第1施設・第4調整槽室。
 
 A7M3たちが生まれるところである。
  クレードル
 室内には40基の調整槽が配置され、その半分強に、今はまだ眠る彼女たちがいる。
 
 彼女? そう、ここには女性タイプしかいない。
 
 
 最初の頃は男女の別はなかったが、今では第1,3槽室が男性タイプ、第2,4槽室が女性タイプ用である。
 
 なぜかといえば、目覚める時はみんな素っ裸なので、これじゃいかんということになったからだ。
 
 ちなみに、これじゃいかんと言い出したのも、このおばちゃんたちであった。
 
 
 第1,2槽室は、さっきのおばちゃんの言葉の通り、現在は稼動していない。
 
 マテリアルの主たる生産を行っていた第3施設が、水没してしまったためである。
 
 そのため、第2施設の覚醒は先月終了してしまい、ここも今月が最後で、
 
 再開は早くて年末の予定になっている。
 
それはさておき 
 閑話休題、そうこうするうちにも作業は進む。
 
  ま だ 目 覚 め て い な い 
 調整槽には、細胞レベルの活動しか行っていない彼女たちが静かに浮かんでいる。
  呼吸できる水
 調整中は様々なマテリアルで不透明だった槽内も、今は薄いピンク色のLCLに満たされている。
 
 そこへ覚醒の促進剤が注入される。
 
 そして、調整槽全体に高電圧がかけられる。
 
 ビクッ
 
 これによりLCLごしの呼吸が開始され、大抵の者は目が覚める。
 
 しかし、例外はいつでもいるもので、今回は1人だけが目覚めなかった。
 
 これに対しては少しばかりの調査が行われるため後回しにされる。
 
 というのがきまりだが、そんなことには慣れっこのおばちゃんは、もう一度ショックを入れる。
 
 紫の髪のが薄く眼を開ける。今度は目覚めたようだ。
 
 ところで、ここまでおばちゃんたちは会話しっぱなしだが、本編とは関係ないので省略しています。
 
 
 
 目覚めた者から意識の確認が行われるが、
 
 これは、おばちゃんが手にしたカードに書かれた簡単な問題を解くことで行われる。
 
 ただ、LCLのために声が出せないので身振り手振りでの解答になり、
  ほほえ
 これが結構コケティッシュで微笑ましい。
 
 それが終わるとようやく外に出られる。
 
 調整槽の床のシャッターが開いてLCLが急速に排出され、
 
 同時にガラス質の外枠が螺旋状に回転しながら床に収納されていく。
 
 そして、槽内の床にひざをついた彼女たちには最初の試練が待っている。
 
 すなわち、肺の中のLCLを吐き出すことだ。
 
 「う゛っ」
 
 
 − 描写不可 −
 
 
 「ごほげほ...」
 
 「けんけん...」
 
 みんな息が荒い。あたりまえだが。
 
 「ほらほら大丈夫かい。」
 
 おばちゃんたちがタオルを配りながら背中をさすってやったりしている。
 
 
 M2までは人数が少なかったことと、液体内での覚醒の危険性が問題となっていたため、
 
 覚醒前に調整槽から出されて肺の洗浄も終わったあとで目覚めさせられていた。
 
 しかし、こちらの方が覚醒率が高いことが判明し、量産用に採用されたのである。
 
 
 さて、みんな一息つく頃にはタオルもいきわたり、
 
 身体を拭き終わった者には薄手のローブが渡される。
 
 ちっ眼福もここまでか。
 
 さっきのリーダー格のおばちゃんが威勢よく言う。
 
 「さぁ、みんな、ちゃんと目は覚めたかい。」
 
 「はーい。」
 
 気持ちのいいユニゾンだ。
 
 男性タイプはこの後制服に着替えて別室でブリーフィングに入るが、彼女たちにはもう1ステップある。
 
 ”髪が乾くまで待つ”だ。
 
 これも、濡れ髪はいかんという、おばちゃんたちの発想によるものである。
 
 ありがたやありがたや。
  けんこうこつ
 髪自身は調整中の設定で色や長さが決定されるが、女性タイプは基本的に肩甲骨ぐらいまではあるため、
 
 ドライヤーを使っても時間がかかる。全員分のドライヤーがあるわけでもないし。
 
 その間何をしてるのかというと、おばちゃんたちとのおしゃべりである。
 
 彼女たちは基本的な会話は既にできるし、一般常識くらいは知っているが、
 
 女性タイプの教育は実はここから始まっているのである。
 
 くわばらくわばら。
 黒とグレーを基調とした
シックなトレーニングスーツ
 で、それが終わると別室にて、支給された下着と研修生用の制服に着替える。
 
 なお、研修生寮にはドレスルームがあり、共同ではあるが数十着の私服が用意されている。
 
 
 ブリーフィングでは今後の予定を聞かされる。
 
 つまり、身体検査,内循環系,脳波検査等の人間ドックと運動機能検査が1週間にわたって行われ、
 
 その後研修所で、今年生まれた先輩たちといっしょに研修を受けること。その間は寮生活になること等。
 
 
 続いて所内を一通り案内され、寮の部屋割りが決められて初日の日程が終わる。
 
 しかし寮では、誕生パーティーが催されるので、彼女たちの一日は終わらない。
 
 
 
 また、彼女たちにはまだ名前がないので、1週間のうちに決めておくように言い渡される。
 
 決め方は問われない。
 
 自分で決めてもいいし、教官やおばちゃんたちに決めてもらってもいい。
  まかな
 ちなみに、おばちゃんたちは研修生寮の賄いもしているのでM3たちとのつきあいも結構深い。
 
 あだな
 とはいえ生まれたばかりの彼女たちのこと、そう簡単には決められず、しばらくは諢名で呼ばれることになる。
 
 これはほとんどの場合、おばちゃんたちがつけることになっている。結果的に。
 
 例えば、こんな風。
 
 「あら、お寝坊さん、今日の検査終わったの?」
 
 「あの、その呼び方、あんまり嬉しくないんですけど。」
 
 「だってまだ名前決めてないんでしょ。」
  ししゅう
 名前が決まった者は、制服の左胸に刺繍される。
 
 この紫の髪のにはまだない。
 
 「う、それはそうなんですけど...。」
 あさって
 「そろそろ決めないと、明後日まででしょ?」
 
 「ええ、でもなかなかいい響きのが思い浮かばなくて。」
 
 「響きねぇ。
知り合いに、『みんな根っこの方じゃ光や音で動いてるんじゃないか』なんて言ってる人もいるけどね。」
 
 「あ、そうなんですか?」
 
 「その人がそう言ってるだけよ。」
 
 「でも、なんかいいですね。」
 きんせん
 何か琴線に触れるものがあったのだろう、唇に人差し指をあてて少し考える。
 とこね
 「私の名前、『常音』なんてどうでしょう?」
 
 空中に書いてみせる。
 
 「あら、いいじゃないの。」
 
 「あ、でも、う〜ん。 響きがもう少し。」
 
 「まぁ、ゆっくり考えなさい。」
 
 そう言って別れる。
 
 しかし、ものの数m行ったところで声が聞こえる。
 
 「ん!決めた。」
 
 おばちゃんが振り向くと、彼女もニコニコしてこちらを向いている。
 
 そして晴れやかな声で宣言する。
 
 「決めました、私の名前は...
 
     

      −あとがき−
 本人曰く『なんでそうなのか忘れちゃいました』を想像してみました。
 ここね
 ココネの「ネ」は「」っていう話。 この話では「維音」って書くことになってます。(笑)
 
 それから、この時のココネは髪が少し長いです。ビジュアルでないのが残念。
     
 

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