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[ 第4話 ]

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2057年:M1 PhoenixVへ
 
       
 耳障りな警告音が鳴り響く。
 
 「状況報告!」
 
 振動する船内で機長が結構冷静な声で言う。
 ブースター
 「推進器2番、沈黙! 3番、燃焼異常!」
 破棄
 「3番、パージ!」
 
 「3番、パージ」
 
 機長の指示に続く機関士の声と共にシャトル最後尾のノズルがひとつ切り離され、
 
 それと同時に船体の振動がおさまる。
 
 「他は?」
 
 「
バーニア 
姿勢制御用噴射器、右A列壊滅、B列損壊20%。
船体右後方上部に亀裂。
火災・エア漏れはありません。
緊急要項は以上です。」
 
 「ん、ひとまずだな。」
 
 そう言って警報を切る。
        
 ターポン
 このシャトルはPhoenixVへ人員・物資を輸送するため、6時間前に飛び立った。
 
 今となっては燃料の確保が難しく、ターポンに到達する有人シャトルは7年ぶりになる。
 
 このミッションでは、地上から6人の人員とターポンの補修素材を届け、
 
 現在の乗員の中から24人を地上に降ろすことになっている。
 A7M1
 そして地上からの6人の中にアルファーがいた。
 
 FASTEN YOURE BELT
 「あ、ほら、ベルト着用のサインきましたよ。」
 ニック
 呼びもしないのに席まで来て、くだらない話をならべていた男に言う。
 
 ニックは顔中で”渋々”の意思表示をしながらも、自分の席に戻る。
 
 「ふぅ。」
 
 聞こえないように小さな溜息をついてアルファーもシートベルトを着ける。
 
 そして、教授に『シャトルの中ではリラックスしているように。』と言われていたことを思い出して、
 
 「データに影響が出てなきゃいいけど。」
 
 と、つぶやく。
 
 アルファーは今、A7の地上以外での活動サンプルとしてここにいる。
 モニター
 そのため、心拍や脳波などの身体状況を常時記録しているので外乱は少ない方がいい。
 レコーダー
 アルファーは、記録装置の入ったウェストポーチにやさしく手を載せながら、
 
 機長からの、ターポンにアプローチを開始するという放送を聞いていた。
 
 
 そして数分後。
 
 シャトル・コクピット。
 
 「軸線合わせ良し。」
 
 『確認しました。
ドッキングシーケンスをフェーズ3に移行してください。』
 
 ターポン側の管制官がシーケンスの最終段階に入ることを促す。
 
 「了解。フェーズ3へ移行します。」
 
 ドッキングの操船は実際は自動操縦で行うので、フェーズを進めるキーが押される。
 ペイロード
 船体上方に向けてバーニアが軽く吹かされ、ターポンの格納庫に底面から接近していく。
 
 そして、あと数mという時。
 
 ゴッ
 
 何かが激突するような衝撃があり、船体が揺れる。
 
 異常事態に操縦装置が自動的にターポンと離れる機動をとる。
 
 少し遅れて警告音が鳴り始める。
 
 「状況報告!」
        
 
 コクピットの中では、さらに詳細な状況の確認が行われている。
 ノーマルスーツ
 それと同時に、乗客には気密服を着用するように指示が出される。
 
 ただの旅行ではないこのミッションの乗客に不平を言う者はなく、
 
 みな乗船前のレクチャーで教わったように気密服を着る。
 
 そして、機長からの状況説明を静かに待つのだが、
 たしな
 ニックだけは再びアルファーに寄って行くも、彼女に窘められてすごすご戻っていった。
 
 
 
 小1時間もしてブリーフィングが始まる。  
 宇宙のゴミ
 「事故の原因は、本船へのスペースデブリの接触によるものと思われます。」
 
 観測システムが稼動していないこの時代では、運が悪いと接触することがある。
 
 「これにより動力装置の一部が使用不能になり、船体の一部に亀裂が発見されています。」
 
 ここで初めて乗客がざわつくが、機長はかまわず続ける。
 
 「ミッションの遂行についてですが、
先ほどの回避機動による推進剤の消費が大きく、
ターポンに行ってから地上に帰還することは難しいと言わざるを得ません。
そこで、取るべき道は2つ。
ひとつは、このまま地上に帰還すること。
もうひとつは、帰還をあきらめて、再度ターポンへのランデブーを試みること。
この場合、2年後にお迎えにあがる予定の本船もターポンに残りますから、
地上への帰還は本当に難しくなります。」
 
 「ターポンに行って、燃料をわけてもらうというのは?」
 
 乗客の一人が問う。
 
 「残念ながらターポンは本船とは異なる駆動システムのため、利用可能な推進剤の備蓄がありません。」
 
 「さっき、亀裂があるって言ったが、大気圏突入の際には問題はないのかい?」
 
  今度は別の乗客。
 
 「亀裂は船体上面でもあり、耐熱シールドを張れば十分可能と考えます。
もちろん、危険は無いとは言いませんが、
再ランデブーにしても、運動性が落ちている本船では、危険はあります。」
 
 「ターポンの方は大丈夫だったんですか?
それと、8名の増員はターポンのバイオスフィアに影響を与えませんか?」
 
  これはアルファー。後半は食糧問題のことを言っている。
 
 「ターポンのコーティングは頑丈ですし、先ほどの通信ではドッキングベイにも問題はありません。
バイオスフィアの方は...。」
 
 「ターポンのバイオスフィアは10人ぐらいはの中に取り込めるはずじゃよ。」
 
 専門外のことに言葉に詰まる機長に代って、乗客の学者が答える。
 
 「つまり、くか退くか、か。」
 
 ニックが皮肉っぽく言う。
 
 「私はこの船の運行については一切の決定権を持っています。
そして、みなさんの生命を考えると、地上帰還を採りたいところですが、
このようなミッションは、今後あるかどうかもわかりません。
ですから、今回はみなさんの意思も尊重したいと考えています。
そこで、再ランデブーを希望される方は、ターポンへの熱意をお聞かせ下さい。
そのあと、最終的な決定をしたいと思います。」
 
 機長がこんな事を言うなんて珍しい。
 
 このシャトルの乗客は、ターポンの搭乗要員3名,ターポンで研究を行う予定の学者2名と、
 
 活動サンプルを採っているアルファーである。
 
 しかしアルファーには、もうひとつ理由があった。
 
 まじめ
 搭乗要員たちは、自分たちの任務の必要性を、ニックでさえ真面目に語り、
 
 学者たちは研究の有用性とターポンでしか実施できないことを、いい年なのに熱く語った。
 
 
 そして、アルファーの番がまわってくる。
 
 「みなさん御存知と思いますが、私はロボットです。
今も、地上以外での活動サンプルのためにここにいます。
無重量,低重量時のカルシウム流出の抑制や心拍制御のサンプルは宇宙空間でしかできません。」
 
 彼女の使命を言う。でもそれだけではない。
 
 「それと、もうひとつ。
私はターポンに図書室を作りたいと思っています。
これまでのことや、これからのこと、
地上のことや、ターポンのこと、
人間のことや、ロボットたちのこと、
そんなことを、みんな記録した図書室です。
すべての記録をとって後世に伝えるという作業は、老いることのない私にしかできません。
これから生まれてくる妹や弟たちにはもう逢えないかもしれませんが、
彼らのためにもなることだと信じています。
 (ひと呼吸)
だから、私はターポンに行きたいと思っています。」
 
 ニックが先頭を切って拍手をする。
 
 思いもよらなかった拍手にアルファーが急に頬を赤く染めて両手をあてる。
 
 少し笑いながら機長がまとめに入る。
 
 「えぇ、結局のところ、みなさん全員が再ランデブーを希望されました。
加えて、実のところ私も機関士も個人的には行きたいと思っておりましたので、問題がなくなってしまいました。
ターポンとの調整がつき次第、再アプローチに入ります。
ではみなさま、もうしばらく、おくつろぎ下さい。」
 
 スチュワーデスのような言葉で締めて、みんなの緊張をほぐしながらコクピットに戻って行く。
 
 アルファーも笑いながら席に戻る。
 
 そして、ふと、ウェストポーチを見て、微笑んで言うのだ。
 
 「このデータって参考になるのかしら?」
 
     

       
−あとがき−
生まれてそんなにたっていないのでアルファーさんの口調や仕草が若いですね。(笑)
それと、脳波計測用のプローブがカチューシャに見えて、かわいいです。(笑2
ちなみにニックってのは将来の”次長さん”です。
また、このミッションでは家族持ちは参加できなかったので、簡単に再ランデブーが決まったようです。
最後に、これを書いていたら、もう一度シャトルを飛ばしてやりたくなりました。どうしましょ。
     
 

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