S.S.トップへ戻る
「分岐路(2)」ページへ行く
「分岐路(3)」ページへ行く

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ダブルキャスト」ロングストーリー
 
GoodEnd5 分岐路 (1)                                     by 栄地帝
 

これはIfの世界を題材にしたストーリーです。ゲーム本編ではバッドエンド直行となる選択肢を選んでしまった主人公。彼は運命の分岐路を見つけ出し、無事もう一つのグッドエンドにたどり着くことができるでしょうか・・・・・・。

 
「ゆっくりおやすみ」
 
僕は取り乱す美月を何とか寝かしつけると、ふぅっとため息をついた。
 
「何でこんなことに・・・・・・」
 
あの廃病院での出来事。謎の人物に襲われた僕と美月。逃げ去るバイクの男。そして残された二枚の写真。
 
佐久間が犯人・・・・・・?まあ、状況から考えて一番怪しいのは確かだけど。
 
「美月ちゃんのことは気になるだろうけど、ここは私にまかせて」
 
部屋を出た僕に、部長がそう声をかけてきた。
 
「あなたは編集作業をお願い」
 
「いえ・・・・・・美月の看病をさせて下さい」
 
僕はダメもとで頼んでみた。いくら部長命令でも、今夜は美月のそばにいてあげたい。
 
「・・・・・・分かったわ」
 
部長は意外にすんなりと折れてくれた。
 
「今日は私、下で寝てるから。・・・・・・くれぐれも気をつけてね」
 
「はい。・・・・・・わがまま言ってすみません」
 
「なに言ってんの、そんなこと気にしなくていいよ。
 
・・・・・・それより、あんたはこれからのことを考えないといけないわ・・・・・・」
 
「はい・・・・・・」
 
部長が階下に行くのを見送った僕は、再びベット脇のイスに腰を落ち着けた。
 
美月が寝返りをうった。あれ、起こしちゃったかな。
 
「・・・・・・」
 
大丈夫だ。すやすや眠っている。心なしかさっきよりも安らかな寝顔だ。僕がここにいるって分かるのかな・・・・・・。
 
その安らかな寝顔と、彼女の身体中に巻きつけられた痛々しい包帯を見ていると、ふつふつと怒りが沸きあがってくる。・・・・・・ちくしょう・・・・・・佐久間のやつ、今度会ったらただじゃすまないぞ・・・・・・。
 
コチコチコチ。時計の針が進む。二時、三時・・・・・・。
 
「やっぱ徹夜はまずいかな・・・・・・。明日も編集あるだろうし・・・・・・」
 
どうやって佐久間に仕返ししてやろうか考えてるうちに、さすがに眠気が襲ってきた。美月もよく眠っているようだし・・・・・・。
 
その数分後、僕はベットに突っ伏す格好で熟睡していた。
 
 
 
 
「おはよー!」
 
元気のいい声で叩き起こされたのは、時計が七時半を回るころだった。
 
朝の日差し。・・・・・・もうこんな時間か。僕は盛大なあくびをすると、ベットに起きあがってニコニコしている美月と目が合った。
 
「あ、あれ、だめだよまだ起きちゃ」
 
「ううん、全然平気だって」
 
美月は元気よくベットから飛び下りて、僕の目を丸くさせた。
 
「ホ、ホントに大丈夫?」
 
美月はしっかりした足取りでベットを一周すると、快活な笑顔を満面に浮かべて僕の気遣いを打ち消した。
 
「お、驚いたなぁ・・・・・・」
 
「キミが大げさなんだよ、こんなあちこち包帯でぐるぐる巻きにしちゃってさぁ・・・・・・」
 
美月は身体中を見回しながら言った。
 
「これ、ひょっとしてキミが巻いたの?」
 
「ん、んなワケないだろ、部長だよ部長。部長が手当てして着替えさせたの」
 
「なーんだ、そっか。残念、残念」
 
残念、ってオイ・・・・・・。
 
「あははっ、冗談だってば」
 
美月の明るい笑い声を聞いていると、なんだか昨日危うく殺されかけたのがウソのように思えてくる。
 
「おや、まあ・・・・・・元気がいいわね」
 
「あ、遥さん!」
 
「部長!」
 
僕と美月は同時に振り向いた。部長はちょっと呆れた表情で僕らを見ている。
 
「やっぱり、念のため病院の手続きしておいた方がいいと思ったんだけど。・・・・・・余計なお世話だったかしらね」
 
「すいません、遥さん。ご心配かけて」
 
美月はぺこりと頭を下げた。
 
別に強がっている様子はないし・・・・・・一晩中付き添っていた僕への配慮?いや、本当に元気になったみたいだ。何はともあれよかった・・・・・・。
 
 
 
 
「じゃあ、僕は美月を送り届けてきますから。その後は部室に直行でいいんですね?」
 
「ええ、お願い。まだ編集も残ってるし・・・・・・」
 
「分かりました。・・・・・・あ、それと部長、佐久間さんの連絡先知りませんか?」
 
「ええっ?佐久間の・・・・・・?」
 
「はい」
 
「・・・・・・あいつは映研の部員じゃないし、自宅の番号までは知らないわ。でも携帯の番号なら控えがあるわよ」
 
「お願いします」
 
「それは別に構わないけど・・・・・・。あんまり無茶するんじゃないわよ。とにかく一度話し合ってみることね。まだ犯人と決まったわけじゃないんだから・・・・・・」
 
「はい、分かってます」
 
とにかく聞きたいことは山ほどある。部長は無茶するなって言うけど・・・・・・。僕や美月にこれ以上手出しさせないためにも、この件にはきっちりケリをつけておかなきゃ。
 
「じゃあ、これで失礼します」
 
部長から番号が書かれたメモを受け取った僕は、振り返って美月に声をかけた。
 
「行こうか、美月」
 
「・・・・・・」
 
「美月?」
 
どうしたんだろ、ボーッとして。やっぱり身体の調子悪いのかな?
 
「美月ってば」
 
「えっ・・・・・・あ、なぁに?」
 
「どうしたの、どこか痛む?」
 
「えっ?・・・・・・ううん、違うの。何でもない」
 
「そう・・・・・・」
 
ひょっとして佐久間の名前を出したのがまずかったのかな。そりゃそうだよなぁ。いくら元気になったって言っても、昨日ヘタすりゃ殺されてたかもしれないんだし。ちょっと無神経だったかな?
 
「じゃあ、帰ろう」
 
「うん。・・・・・・」
 
 
 
 
美月をマンションまで見送った僕は、その後先輩たちや二村と一緒に大学の部室で残りの編集作業にかかった。今日中に何とか形にして、明日は試写会を行なう予定なのだ。
 
まあ、試写といってもとりあえずのものなので、それで作業が終わりというわけではない。そこで作品の全体像を把握しておき、最終的な詰めの作業に入る。学園祭まであと約一週間。まだまだやることは山積みだ。
 
やることと言えば、佐久間さんへの電話。ニ、三回かけてみたが、結局つながらないままだ。大学のほうも欠席しているらしい。このまま行方をくらます気なんだろうか・・・・・・。
 
ふと時計を見る。昼の十二時だ。
 
「よーし、一時まで休憩!再開の時間に遅れるなよ」
 
剛田先輩の声で昼食タイムとなった。
 
部室を出た僕は、構内の自販でジュースを買うと、ベンチに腰を下ろした。
 
「・・・・・・」
 
どうもくつろげない。美月、どうしてるかな。
 
「うーん。・・・・・・」
 
帰って様子を見てこようか。いや、しかし一時までには部室に戻らないと。時間的には往復することも考えてギリギリ何とかなるけど、ゆっくり昼食をとる暇はなくなってしまう。
 
 
(帰る・帰らない)
 
 
僕は悩んだ。・・・・・・さび付いた歯車が軋むような音が脳裏に響いたのは気のせいだろうか?
 
「よし。・・・・・・やっぱり帰ろう」
 
なに、一日くらい昼めし抜いたって死ぬわけじゃない。それより美月が心配だ。ちょっと顔を見てくるだけでいいんだから。
 
決心すると、僕は飲みかけのジュース缶をベンチに残したまま、早足で歩き出した。
 
 
 
 
「ただいま」
 
僕が玄関をくぐるのと同時に、電話のフックを戻す音が聞こえた。
 
「あ・・・・・・お帰りなさい」
 
美月が出迎えてくれた。
 
「あれ、誰と電話?」
 
僕は靴を脱ぎながら美月に聞いてみた。
 
「うん、ちょっと・・・・・・バイト先から」
 
「ガソリンスタンド、ちゃんと休むって言っといた?」
 
「今日も来てくれって。
 
・・・・・・あたし、行かなくちゃ」
 
「ええっ?」
 
驚いた僕は呆れ顔で美月をにらんだ。
 
「昨日の今日だよ?今日一日くらいはちゃんと安静にしておかないと」
 
「大丈夫」
 
「・・・・・・」
 
妙に迫力のある美月の様子に気圧されてしまった。いや、言葉尻は穏やかなんだけど、雰囲気がどこか尋常じゃないと言うか・・・・・・。あれ、ひょっとして怒ってる?いや、そんな心当たりもないし。今朝は普通だったしなぁ・・・・・・。
 
「・・・・・・じゃあ体調悪くなったらすぐ帰ってくるんだよ、いい?」
 
「分かってる」
 
美月はそれだけ言うと、すっと立ち上がり、自室に入ると振り向きもせずにぴしゃりと戸を閉めてしまった。
 
な・・・・・・何なんだ、一体。何かしたっけ?僕。
 
と、閉まったばかりの戸が勢い良く開いて、僕を仰天させた。
 
「あれ??帰ってたんだ」
 
部屋から出てきた美月は、僕を見てびっくりしたように言った。
 
「・・・・・・は?」
 
「今日は遅くなるって遥さんから聞いてたのに、どうしたの?」
 
「え?・・・・・・いや、あの・・・・・・」
 
「あ〜っ、ひょっとしてボクのことが心配でいてもたってもいられなかったとか」
 
「???」
 
いつもの美月だ。このノリ、このテンポ。・・・・・・間違いない。
 
「あの。・・・・・・美月・・・・・・サン?」
 
「ん?なに?」
 
「あ・・・・・・、いや、何でも」
 
疲れてるのかな、僕。・・・・・・いやいや、これはどっちかって言うと美月の問題だぞ。
 
「・・・・・・ねぇ、美月。今日はやっぱりバイト行くのやめた方がいいんじゃない?」
 
「え?バイト?」
 
「うん。・・・・・・ほら、自分では気づかなくても、ひょっとしたら目に見えない疲れとか溜まってるかもしれないし」
 
「・・・・・・心配してくれるのは嬉しいけど、行くも何も今日はバイト休みだよ」
 
「休み?でもさっき・・・・・・」
 
僕は頭がこんがらがってきた。どういうことだ?
 
「・・・・・・」
 
もうあまり時間がない。そろそろ大学に戻らなきゃ。でも、このまま美月を一人にしてしまって大丈夫だろうか。あきらかに様子が変じゃないか?今までにも状況によって態度がころころ変わることはあったが、言ってることまで全く食い違っているのはどう考えても妙だ。
 
「・・・・・・美月、これから一緒に大学行かない?編集手伝ってくれないかな。全然人手が足りなくて・・・・・・」
 
僕は思いつきでそう言った。ゆっくり休ませるのが彼女のためなのかもしれないが・・・・・・どうも気になる。
 
「あ、それおもしろそう!行く行く!」
 
かなりヒマしていたらしく、幸いにも(?)彼女は二つ返事で引き受けてくれた。
 
 
 
 
美月を連れた僕は、再びてんやわんやの編集作業に追われる身に戻った。美月はやはり素人ということで、編集には加わらず、翔子ちゃんたち女子部員と一緒に僕らの夜食の世話やその他の雑用を担当することになった。
 
目が回るほど忙しいにもかかわらず、心なしか美月の表情は自宅にいたときより生き生きしているように見える。
 
連れてきて正解だった。昨日あんなことがあった彼女を働かせていることに罪悪感を感じていた僕は、ほっとすると同時に、いつもと変わりない美月の様子にさっき感じた心配そのものが杞憂だったんじゃないかと思いはじめていた。
 
やっぱり疲れていたんだな、美月。体の疲れとかそんなんじゃなくて、いろいろあって精神的にまいってたんだと思う。そういう時は、一箇所にじっとしているより動くに限る。
 
「さあ!あとひと踏ん張りよ!頑張ってちょうだい」
 
部長の激がとぶ。それにしても、この忙しさが学園祭直前まで続くのかと思うと、ちょっと気が遠くなってきた・・・・・・。
 
 
 
 
結局今日の作業がお開きになったのは、夜中の一時を過ぎた頃だった。
 
「ふぅ、疲れた」
 
僕は校舎前のベンチにへたりこみ、足をぶらつかせながらちょっとした開放感に浸っていた。
 
お疲れー、とか言いながら他の部員たちがめいめいに帰っていくなか、僕は美月を待っていた。美月や翔子ちゃんたちは僕らが食べた夜食の後片づけをしている。明日は試写会の準備があるし、今日は帰ったら速攻で寝よう、などと考えていた僕は、はっきり言って昼間のことなどきれいさっぱり忘れていた。
 
「ん・・・・・・?」
 
何気なく視線を上げた僕は、校舎の屋上に人影が立っているのに気づいた。
 
「誰だろう・・・・・・?」
 
こんな時間まで大学に残っているのは、今夜は映研部員だけのはずだけど。部員の誰かかな?
 
月明かりをバックに、微かなシルエット。・・・・・・何か見覚えある気がする。まあ、部員の誰かだとすれば、見覚えがあって当たり前なんだけど。
 
「お待たせー!」
 
美月の声で注意を引き戻された。美月は肩で息をしながらこちらに走ってくる。
 
ふと上を見ると、人影がすっと奥に消えていくところだった。誰だったんだろう?ま、・・・・・・誰だろうと僕には関係ないか。
 
「さあ、帰ろ!明日は早いんでしょ?」
 
「そうなんだよ、しかも僕だけね。新人は辛いなぁ・・・・・・」
 
「ほらぁ、グチってばかりいるとまた遥さんにどやされるぞ!」
 
「そんなこと言われてもなぁ・・・・・・」
 
「あ、そうそう、明日はボクも試写会行くって遥さんにお願いしてきたから」
 
「あ、そうなんだ。・・・・・・じゃ、頑張って仕上げないとね」
 
「うん、がんばれ新人くん!」
 
「痛い!背中を叩くなって」
 
「へへ・・・・・・」
 
そんな他愛のない会話をしながら僕らは帰路についた。
 
 
                                   <つづく>
 
 
 
 
 
 
 
 

「分岐路(2)」ページへ行く
「分岐路(3)」ページへ行く
S.S.トップへ戻る