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「ダブルキャスト」ロングストーリー
 
GoodEnd5 分岐路 (2)                                     by 栄地帝
 

 
翌日。試写会の日だ。
 
「遅いわねぇ・・・・・・」
 
部長が腕時計を見ながら言った。
 
「待ちますか?」
 
「いえ、時間厳守。時間を守れないやつが悪いのよ。予定通りに始めるわ」
 
「はぁ・・・・・・」
 
今日の作業は、何とほとんど僕一人でやった。早朝から黙々とだ。他のみんなはと言うと、大学側からの要請で学園祭の準備に駆り出されている。学園内での映研の立場は弱い。部長の英断(?)で、結局僕と二村の新人コンビを除いて全員が執行部の機嫌取りに奔走することになったのだ。
 
ま、部長を責めてはいけない。部長とて責任者。体面より部を守ることを第一に考えなくてはいけないのだ。そんなわけで、今日の試写会は僕と二村、部長、美月の四人で行なうことになった。
 
ちなみに、二村も午後から学祭の準備に回されている。あちらも相当忙しいようで、こき使われているのは僕だけではないのだ。
 
「部長。・・・・・・あの、時間です」
 
「よし、始めるわよ」
 
「分かりました」
 
映写機がカタカタと回り始める。スクリーン一杯に美月が演じるヒロインの顔が映し出された。
 
「ごめんなさ〜い、遅くなりましたぁ」
 
くだんのヒロインの御登場だ。
 
「いいや、ちょうど始まったトコだから」
 
全く、部長・・・・・・。善意の出演者には甘いんだからな。
 
「あ、できたんだ、映画!」
 
美月が嬉しそうにスクリーンを覗き込んだ。これが完成形だと思っているらしい。
 
「まださ、NGのシーンをカットして粗くつないだだけだから」
 
「ふぅ〜ん、そうなんだ。・・・・・・あれ?他の部員の人たちは?」
 
美月はがらんとした室内をきょろきょろ見回しながら言った。
 
「あとは二村が来るはずなんだけど・・・・・・」
 
僕の言葉と同時に、部長のPHSが鳴り出した。
 
「はい、私。・・・・・・どうしたの、もう始まってるよ。
 
・・・・・・え?何ですって?」
 
部長の顔が険しくなった。何事だろう。
 
「何言ってんの、許さないよ!
 
・・・・・・そんなの知ったこっちゃないわ、そっちで何とかしなさい」
 
「どうしたのかな」
 
部長の形相に脅えた美月が僕に寄り添ってきた。
 
「あの、部長。・・・・・・何かあったんですか?」
 
一方的にPHSを切り、かみつきそうな顔でスクリーンを睨みつけている部長に、僕は恐る恐る聞いた。
 
「二村よ。あのバカ、忙しくてこっちにこれないだって。・・・・・・馬鹿にしてると思わない?全くどっちが本分だと思ってるのかしらね」
 
そんな、部長。・・・・・・自分で行かせたくせに。
 
「いいわ、私ちょっと見てくる。横っ面の一つでも張ってやらなきゃ。
 
・・・・・・すぐ戻ってくるから、試写は続けてていいよ」
 
部長はそう言い残して部室を出ていった。
 
「二村さん、どうなっちゃうんだろ」
 
「さあ。あんまり想像しない方がいいよ」
 
「そうだね」
 
それでもちゃっかり想像したらしく、美月は口に手を当ててくすくすと笑った。・・・・・・哀れ、二村。
 
その時、僕は唐突にこのシチュエーションに気づいた。暗い部屋。二人きり。そして、図らずも寄り添う肩・・・・・・。
 
あの撮影旅行の夜以来だろうか。その後自宅でもちょっといい雰囲気になったけど、あの時は部長の乱入があってそれどころではなかったし。
 
「・・・・・・美月」
 
「ん?」
 
振り向いた美月の顔が僕の間近にあった。あと、ほんのちょっと距離を縮めれば・・・・・・。未遂を含めればこれで三回目のチャンスだし、いきなりってことはないよな、うん。自然の流れだ。・・・・・・多分。
 
「・・・・・・どうしたの?何か、変だよ」
 
美月は困ったように微笑んだ。雰囲気を察しているようだ。でも、拒絶はしていない・・・・・・。
 
僕は思い切って顔を近づけた。・・・・・・彼女がすっと身を引くのが分かって、僕は目を開けた。
 
美月はうつむいて膝を抱えこんでいた。
 
「・・・・・・ゴメン。あの・・・・・・」
 
「・・・・・・ううん、キミが悪いわけじゃないの」
 
美月は沈んだ面持ちで言った。
 
「ただ・・・・・・答えを出しちゃっていいのかな、って」
 
「え?」
 
「ボク、何も分からないから・・・・・・何も決められないの。このまま立ち止まってるしかないんじゃないかな、って・・・・・・」
 
「分からない、って・・・・・・自分の気持ちが?」
 
「気持ちは分かってる。でも、それがどういうことなのか、自分で決められないの。・・・・・・変だよね、こんなこと」
 
美月には記憶が、思い出がない。
 
・・・・・・恋した記憶さえないのだとしたら。恋した相手と何を語らい、何を手に入れ、何を失ったか。自然に積み重なっていった思い出が、ある日突然不自然な横風を受けて崩れ去ったとしたら・・・・・・人はそれでも前に進めるだろうか?
 
・・・・・・でも、気持ちが分かっているのなら、戸惑うことはない。
 
ここは一つ、僕が男らしく態度で示さなきゃ!
 
「・・・・・・僕が決めてあげるよ」
 
僕は美月の肩をそっと抱き寄せると言った。
 
「・・・・・・え?」
 
「君がどうしたらいいか」
 
美月はいたずらっぽい目で僕の顔を覗き込んだ。
 
「何かエッチなこと考えてるでしょ」
 
僕はぶんぶん首を振って否定した。
 
「・・・・・・そうじゃなくて!
 
・・・・・・多分、君は僕のことを必要としているんじゃないかな、と・・・・・・」
 
「ほら、やっぱり」
 
僕はもう一度首をぶんぶん振った。
 
「い、いや、だからね・・・・・・。そういうことじゃなくて、もっと、ほら、何て言うか・・・・・・」
 
「保護者として?キミがいないと、ボクは家なし浮浪少女に逆戻りだもんねー」
 
「だ、だから・・・・・・」
 
柄にもなくリードしようとしたところを掻き回されて、僕はしどろもどろになった。
 
僕の恨めしげな視線に気づくと、美月はぺろっと舌を出した。
 
「・・・・・・ゴメンゴメン、急にマジメな顔するから、ちょっとからかいたくなっちゃって」
 
そう言うと、美月は再び膝を抱え込んだ。
 
「だめだなー、ボク。・・・・・・肝心なときになると、いっつも逃げてばかりいる」
 
「美月・・・・・・」
 
どうやら、僕らを隔てている壁は一枚ではないらしい。
 
どこかで一線を引いていなければ、成り立たないほど不安定で、不自然な関係・・・・・・。
 
(保護者としての僕が必要、か・・・・・・)
 
あの言葉はただの冗談ではないだろう。
 
・・・・・・スクリーンには、代役の僕と女優の美月が抱き合うシーンが写されていた。
 
これはスクリーン上の虚像に過ぎない。
 
でも、同じ場所で、同じように、素顔のままで互いの気持ちを確認し合った瞬間が僕らにはあったはずだ。
 
その思いが、僕の喉に詰まりかけた言葉を押し出した。
 
 
 
 
「・・・・・・美月、覚えてる?港でセリフ練習している時に僕が言った言葉」
 
僕はスクリーンに目を向けたままそう聞いた。
 
「・・・・・・ボクも守るって?」
 
「それもあるけど・・・・・・」
 
僕はゆっくりと美月に向き直った。
 
「・・・・・・僕が、君を必要としてるってこと。君が僕を同じ意味で必要としてくれてるかは正直分からないけど、少なくとも僕のこの気持ちだけは信じて欲しいんだ」
 
思わず自分の気持ちを直球で示してしまい、僕は急激に顔面に血流が込み上げてくるのを感じた。
 
「・・・・・・」
 
美月は無言のまま僕を見つめていた。僕は赤面した顔を見られるのが恥ずかしくって、目を逸らしていた。
 
急速に彼女の顔が近づいてきて、僕の鼓動は胸を突き破らんばかりに高鳴った。
 
気持ちにウソはつけない。
 
僕の気持ちが伝わったのなら、それが彼女の答えなのだと僕は理解した。
 
スクリーンから溢れる夕焼けの色がやけに眩しく部室を包み、僕らの一瞬の出来事を覆い隠した。
 
 
 
 
一週間後。学園祭当日だ。
 
映画は無事完成した。僕は汗だくになりながら、当日の作業である宣伝用のポスター貼りに精を出していた。
 
ふと佐久間さんのことが頭をよぎって、僕の手が止まった。
 
「コラ!」
 
背後からの突然の叱咤に、僕は飛び上がらんばかりに驚いた。
 
「なに考えごとしてんの?手の方が休んでるよ!」
 
先輩達かと思いきや、・・・・・・ポスターにプリントされた主演女優と同じ顔を見つけた僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
 
「美月!」
 
美月はくるっと踵をかえすと、廊下の端から賑わう広場へと出ていった。僕は最後の一枚を貼り終えると、あわてるようにその後に続く。
 
並んで屋外に出た僕らは、ベンチに座って一息つくことにした。
 
都会の雑踏のようなざわめきが、僕らを包み込む。僕は吹き出る汗を手で拭いながら、真夏の太陽を恨めしげに見上げた。
 
・・・・・・あれから一週間。佐久間さんは相変わらず行方不明のままだ。僕や美月に対するいやがらせはぱったりと影をひそめ、全てが終わったようにも思える。実際、僕らはそんな甘い感覚の中でこの一週間を過ごしていた。
 
「なにボ〜ッとしてんの?」
 
美月の怪訝な調子の声が僕の耳を打った。
 
「・・・・・・佐久間さんのことを考えてた」
 
「そっか。・・・・・・あれから一週間だもんね」
 
「うん。・・・・・・佐久間さんは映画の邪魔をしたかったんだって思ってたけど、もう映画は完成しちゃったし・・・・・・。
 
・・・・・・結局、あの人は何がしたかったんだろう・・・・・・」
 
「・・・・・・」
 
美月はすっと立ち上がると、真正面から僕の顔を覗き込んだ。
 
「ねぇねぇ、5時からライブ始まるんだって。行こ行こ!」
 
美月はあまり佐久間さんの話題に触れようとしない。意識的に避けているのか、それとも僕と同じように気にしなくなっているだけなのか。いずれにしても、当の本人が行方不明のままではこの話は進展しない。
 
僕は、この話題は切り上げて、美月の意向にならって今日一日は楽しい学園祭をエンジョイすることに決めた。
 
「その前になにか食べようよ。美月だって朝からずっと先輩たちにコキ使われて、なにも食べてないだろう?」
 
そうなのだ。彼女は部員でもないのに、みずから志願してこの炎熱地獄の中、僕らの作業につきあってくれていた。
 
「なんでわざわざ手伝うなんて言い出したんだよ」
 
「だぁってぇ!」
 
いきなり美月は僕の腕に絡みつくと、思いっきり引っ張った。彼女の胸の重みが僕の二の腕に押しつけられ、僕は危うく血流が逆流しそうになった。
 
「ずっと、一緒にいたかったから・・・・・・。
 
・・・・・・それって迷惑?」
 
「迷惑だなんて・・・・・・嬉しいよ」
 
「あはっ、なに食べよっか!お好み焼き?タコ焼き?焼き鳥?それとも焼きそば?」
 
「それ全部ってのはナシだよ」
 
僕は苦笑して、少し積極的になった美月の顔を眩しそうに見つめた。
 
全てはうまくいく。・・・・・・それは甘い幻想であり、平穏な日常に逃避した心情に過ぎないことをすぐに思い知らされることになるのだが、今の僕らにとっては共通の思いであり、願いでもあった。僕らの中では、それはリアルな現実と何ら変わることはなかったのだ。
 
少なくとも、この時までは。
 
 
 
 
美月は幽霊でも見るような顔で目の前に立つ男を見ていた。無理もない。鏡を見れば僕だって同じ顔をしているに違いないのだ。
 
数あるレパートリーの中から遅めの昼食に焼きそばをチョイスした僕らは、腹の鳴りを静めたあと、腕を組んですっかり恋人気分に浸りながら賑わう構内を闊歩していたのだが。
 
「やあ、探したよ」
 
背後からかけられたその一言で、僕と彼女の幸せな時は終わりを告げた。
 
そう、文字通り『終わった』のだ。
 
 
 
 
「部長!どういうことなんです!」
 
この時の僕の剣幕はよっぽど凄かったのだろう。なんせ、あの部長が一瞬たじろいだぐらいだ。
 
「お、落ち着きなさい。一体何の話?」
 
「何の話じゃありませんよ!佐久間のことです!」
 
「あ〜・・・・・・そのこと」
 
「そのことって・・・・・・や、やっぱり知ってたんですね!?」
 
僕は先刻の出来事を頭の中で反すうして、いら立ちまぎれに机をバンと叩いた。
 
・・・・・・何の前触れもなく、再び僕らの前に姿を現した佐久間。
 
そして彼は言ったのだ。
 
「部長!この一週間、ずっと佐久間と連絡を取り合ってたって本当なんですか!?」
 
「本当よ」
 
あっさりと言い返された僕は、気勢を削がれ、言葉に詰まった。
 
「な、何であんなヤツと・・・・・・部長は一体どっちの味方なんです!」
 
「いいから座りなさい!ちゃんと説明するから!」
 
いつものペースを取り戻した部長は、パイプイスを指差して怒鳴った。
 
こうなると、残念ながら僕に勝ち目はない。僕はしぶしぶイスに腰をかけると、部長の次の言葉を待った。
 
「佐久間に呼び出されたのね?話があるから五時に屋上に来いって」
 
「はあ」
 
「事情は私に聞けば分かるって言われたのね?」
 
「そうです」
 
「・・・・・・で、美月ちゃんは?」
 
「は?・・・・・・美月なら広場で待ってもらってますけど。いくらなんでも連れていくわけにはいきませんからね」
 
「そう。・・・・・・計算通り動いてくれるわね」
 
「???」
 
「さ、そろそろ私たちも行きましょうか」
 
「行くって・・・・・・どこへですか?」
 
「屋上よ」
 
 
 
 
時刻は三時半になったばかりだった。
 
「部長。まだ早いんじゃ・・・・・・」
 
「いいの。いいから黙ってなさい」
 
「・・・・・・」
 
引きずられるように屋上に連れてこられた僕は、部長の指示で給水塔のかげに身を隠していた。
 
「で、この後どうなるんです?」
 
僕は半分やけになって聞いた。
 
「シッ」
 
コツコツと足音がして、佐久間さんが姿を現した。・・・・・・あれ?まだ約束の時間まで一時間以上あるのに。
 
「あの。・・・・・・佐久間さんが来たみたいですけど」
 
「見れば分かるわよ」
 
「出ていかなくていいんですか?」
 
「まだよ。彼女が来てない」
 
「彼女?」
 
「・・・・・・美月ちゃんよ」
 
「美月?美月が来るわけないじゃないですか」
 
部長は意味ありげな目つきで僕をちらっと見た。
 
「・・・・・・何故そう思うの?」
 
「何故って・・・・・・恐がってたし・・・・・・彼女は僕が戻るのを待ってます。危険を承知で、こんな所に一人で来るわけないじゃないですか」
 
「それならよかったんだけど、ね」
 
部長の表情が一瞬歪んだように見えたのは気のせいだろうか?
 
部長の視線を追うと、外付けの階段を上がる美月の姿があった。カンカンカン、と無機質な足音を響かせながら、美月は確実に屋上に近づいてくる。
 
・・・・・・・・・・・・美月・・・・・・・・・・・・?
 
 
 
 
「やあ。やっぱり来たね」
 
屋上に着いた美月は、先に来ている佐久間さんに気づき、警戒するように目を凍らせた。
 
が、すぐに表情を戻すと、微笑みを浮かべながら佐久間さんに歩み寄る。
 
「あら、早いのね。
 
・・・・・・お久しぶり、佐久間さん。この間はごめんなさいね。志穂の用事が忙しくてなかなか出てこれなかったの」
 
「君は・・・・・・美月さん?」
 
「そうよ。志穂じゃなくて残念だったわね」
 
「いや。・・・・・・君と話がしたかったんだ」
 
「へえ?」
 
美月は後ろ手を組んだままゆっくりと歩を進めていった。
 
「あたしを待っていてくれたの?」
 
「そうだよ。・・・・・・君は先回りしてここで僕を待ち伏せるつもりだったんだろ?その手は食わないよ」
 
途端に美月の表情が険しくなった。
 
「分かってるなら話は早いわ。・・・・・・あなた、邪魔なのよ」
 
「僕が昔志穂さんと付き合ってたからかい?」
 
美月は佐久間さんと見下すように哄笑した。
 
「うぬぼれないで。志穂の心はもうあなたには無いわ。・・・・・・あの男。あいつも邪魔。
 
・・・・・・でも・・・・・・あなたが先よ」
 
美月・・・・・・後ろ手に何を持っているの?
 
「あなた、あたしを病院に連れ戻すつもりなんでしょ?」
 
「そうだ。・・・・・・君はこんなところに居ちゃいけない」
 
「だから邪魔だって言うのよ!」
 
美月が角材を振り下ろした。佐久間さんはすばやく後ろに下がってその先端をかわした。
 
「誰にも邪魔させない。・・・・・・あなたにも、あの男にも。志穂はあたしのものよ」
 
美月が再び腕を振り上げた。
 
 
 
 
「そこまでよ!」
 
部長の声で、僕はぼやけた視界のピントが急速に合ってハッとなった。気がつくと、部長は二人の前で仁王立ちになっている。
 
「罠にかかったわね、美月ちゃん。あなたの正体見せてもらったわよ」
 
「遥さん、彼は?」
 
佐久間さんがホッとしたように部長に言った。
 
「ちゃんと連れてきたわ。・・・・・・ほら、もういいわよ、出てきなさい」
 
「彼・・・・・・?」
 
美月がいぶかしげに目を細めた。
 
僕が部長に腕を引っ張られて給水塔のうしろから出てくると、美月は大きく目を見開いた。
 
「・・・・・・あ」
 
「どう、驚いた?もうあなたに逃げ場はないのよ。・・・・・・観念しなさい」
 
僕は美月から目を逸らせなかった。美月も僕から目を逸らさなかった。その視線の意味するものは、僕には分からない。
 
「美月・・・・・・?」
 
僕が一歩足を踏み出すと、美月は怯えたように後ずさった。しかし、それも一瞬。
 
「・・・・・・殺してやる!」
 
美月は凄まじい形相で僕に襲いかかってきた。
 
「危ない!」
 
部長がとっさに僕を突き飛ばし、角材がそれまで僕が立っていた床を激しく打ちつけた。
 
美月は今度は部長に殺気だった視線を向けた。部長が襲われる瞬間、佐久間さんが背後から美月にタックルを仕掛けた。
 
美月と佐久間さんはもつれあい、床に転がった。すぐに部長が加わり、二人がかりで美月を抑えこむ。
 
「佐久間、しっかり足を押さえて!」
 
「分かってます。・・・・・・志穂さん、目を覚ますんだ!」
 
「うるさいっ!離せぇぇぇ!!」
 
暴れる美月。必死に彼女を押さえつける部長と佐久間さん。僕はぼうっと見ているだけだった。
 
「は ・ な ・ せぇぇぇぇぇぇ!!!」
 
 
                                   <つづく>
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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