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季節を抱きしめて

「桜の精編・悲恋桜の枯れるとき…」 前編

作者・アレックソ

 記憶を無くしていた少女―麻由。

彼女は、僕が昔憧れていた女性―交通事故で死んでしまったあの子…

その彼女が、“悲恋桜の精”として再び僕の前に現れた。

僕が、“悲恋桜の呪縛”を解いてやることで、彼女は“桜の精”へと生まれ変わる事が出来た。

“悲恋桜”も、間違った言い伝えだったことがわかり“思い出桜”へとその名を変えて行くだろう…

でも、ほとんどの人の間では“悲恋桜”として、定着してしまっているのだが…

―もう麻由に会う事はないだろう…そう思っていったのだが…

「どうしたんですか?そんな辛気臭い顔して。」

「いや、ちょっと考え事を…」

何故だか、この“思い出桜”が花をつけている間は、麻由は僕の目の前に現れるようになった。

麻由に理由を聞いてみても…

「さぁ?私にも分からないんですよ。」

そう答えるだけで…どうやら、麻由にもその理由は判らないらしい。

――今年もそろそろ桜の花が咲く、そんな季節が近づいてきていた。

僕は、例年のように麻由に会うため“思い出桜”へと向かっていた。

しかし、“思い出桜”にはまだ蕾みすらついていない状態だった。

僕は、また出直すことにした。

次の日、“思い出桜”の傍まで来た時だった…

(あれ?なんだろう。)

“思い出桜”の下に人が集まっている。

そこには、麻由の姿は無い…一見、工事現場の作業員のようにも見える男達が、4・5人くらい居るようだ。

「だめだな、こりゃ…」

「根っこが腐ってやがる。」

「切り倒してしまわないと、危なくてしょうがねぇ。」

(“思い出桜”を切り倒す?)

僕は、男達に問い詰める。

「あの…“思い出桜”切っちゃうんですか?」

「ん?“思い出桜”?」

「あ、いえ…この“悲恋桜”のことです…」

「ああ、随分昔からあるみたいだし。

 もう、花もつけないんじゃなぁ…」

「ほっといて、勝手に倒れられちゃ危ねぇからな。」

「で、それがどうかしたのか?」

「あの…ちょっと、気になったもので…」

――帰り道、僕は肩を落とし街を歩く…

“思い出桜”がなくなる…もう、麻由に会えなくなる…

このまま、麻由に会えなくなるなんて嫌だ!

僕が、思い出桜を…麻由を守るんだ!

後編に続く


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