季節を抱きしめて
「桜の精編・悲恋桜の枯れるとき…」 エピローグ
―その場所には、もうあの木は無かった…
僕達は、無言のままで“悲恋桜”の立っていた場所を見つめていた。
「わっ!!」
いきなり、後から押された僕は派手に転んでしまった。
「二人とも、な〜に暗い顔してるんですか?」
僕は、声の方を見てみる。
すると、そこには―
「キミは…キミは!」
「もう、き・みっじゃなくて、麻・由っ!」
そう、あの麻由が立っているではないか!!
「ふふふっ。また会えましたね。」
「姉さん…」
“麻美”が泣きながら“麻由”に抱きついた。
「麻由…もう会えないかと…」
「私も、そう思ったんですけど…
“もう一度、あなたに会いたい!”その願いががなったんです。」
「でも、どうして?
あの“悲恋桜”はもう無いんだよ…」
「私、“春の精”になったんです。」
「“春の精”?」
「そうです。
春の訪れを、みなさんにお伝えするのが私の使命…
…ですから、もう行かなくてはなりません。」
また、麻由が遠くに行ってしまう…
そんな不安が僕の中に広がって行く…
「そんな…折角、会えたんだよ。」
僕の不安を察したのだろうか、麻由が口を開く。
「大丈夫ですよ。心配しないで下さい。」
「私は、“春の精”。
また、春になったら会えますよ。」
「本当に?」
「ええ。あなたが、私に会いたいと思う気持ちがあれば…
その気持ちさえあれば、世界中何処に居たって…
私はあなたに会いに行きます!」
「麻由…」
僕は、麻由を力強く抱きしめた…
「春が来るまで、暫くお別れです。」
そう言った後、麻由は僕の耳元で麻美に聞こえないように囁く。
『妹を、よろしくお願いします。』
「えっ!?」
「それではまた、春になったらお会いしましょう。」
麻由はその言葉を残し、僕達の元から去って行った…
僕は麻美の肩を抱き、暫く麻由の居た場所を見つめていた。
また春になれば麻由に会える―麻由に会う事が出来るんだ!!
おしまい。