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季節を抱きしめて

「桜の精編・悲恋桜の枯れるとき…」 後編

作者・アレックソ

 夕方になり、僕は再び“思い出桜”の元へとやってきた。

既に工事の準備は整っており、今、まさに切り倒されんとする時だった。

「待ってください!」

僕は、勢いよく飛び出していた…

「なんだ?てめぇは」

「この木を切り倒すのを、止めてもらえませんか」

「そりゃ、この木はこの町の名物みたいなもんだが…

 よく見てみろ、この木はな…もう寿命なんだ…

 この場所には、人がよく集まる…このままにしとくわけにはいんだ」

作業員の男は、悲しそうな表情で僕にそう言った…

「確かに…わかります…

 でも…それでも!!」

しつこく食い下がる僕に、別の作業員が近づいてきた。

「邪魔すんじゃねぇ!!ひっこんでろ!」

僕の頭に、衝撃が走る。

だんだん、意識が遠のいていく…

 

気を失った僕は、不思議な夢を見た…

「……大丈夫ですか?…」

「!!」

「お久しぶりです。」

「麻由!良かった…

 もう、キミに会えないんじゃないかと…」

「……」

「キミに会えたって事は、“思い出桜”も無事だったんだね。」

「…いいえ、もうあの木はありませんよ…」

「えっ!?」

「あの木は、長い間この地で花を咲かせてきました…

 そして、その役目を終えたんです。」

「それじゃ、キミはどうなってしまうの?」

「私は、あの木に…

 “悲恋桜の精”として、存在していました…」

「だって…“悲恋桜の呪縛”は解けたんじゃ…」

「ええ…でも、あの“桜の木の精”であることには、かわりありません…

 そして、その木は既にありません…」

「それじゃ…まさか…」

「はい…あなたに、お別れを言いに来ました。」

「そんな…そんなの嫌だよ!」

「…私も、嫌です…

 でも、これが“桜の精”である、私の運命(さだめ)…」

「そんな…待って!!

 待ってよ!麻由!!」

「…サヨウナラ…私のこと忘れないで下さい…」

僕は、麻由の方へ手を伸ばし叫ぶ―

「麻由!!」

「良かった…もう、目を開けてくれないかと…」

僕が、目を覚ました場所は、病院のベッドの上のようだ…

「もう、心配しましたよ。

 あなたが、病院に運ばれたって聞いたときには…」

僕にずっと付き添っていてくれたのだろう、一人の女の子がいる。

「なんだか、うなされてたみたいですけど、どんな夢を見てたんですか?」

「あ…いや…」

「麻由…麻由って…

 “姉さん”の夢…見てたんですね?」

そう、彼女はあの“麻由の妹”、“麻美”だ。

「あ…うん…」

僕は、さっき見た夢の話を“麻美”に聞かせた。

“麻由”が、僕にお別れを言いに来たことを…

―それ以上、僕達はなにも言葉を交わす事無く病院を後にし、“悲恋桜”の立っていた場所までやってきた。

エピローグに続く


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