現実と出逢う

 新聞は相変わらず読まないがウェブで見るようになった。そもそもの 目的からはもう遠く外れているが、今でもメイルマガジンをいくつか (いや30くらいは)講読している。

 以前書いたように、中高生が発 行するものを好んで読んでいる。正直に言って面白いものは少ないのだ が、何かに出逢えるかも知れないと思って読む。とも言えないな、今で は。最近は食傷気味ではある。

 たくさん購読していると、莫迦でも気づく。中高生のメイルマガジン なんて、半年も持たないものが殆どなのだ。最初は何かを言いたかった り何かをしてみたかったりして始めるのだろうけれど、そのうちに発行 という《約束》が重荷になってくる。試験勉強とかが忙しくなって手が 回らなくなる。言いたいことがうまく言えないとか、言いたいことなん て実はなかったとかが判ってくる。あるいは単に飽きてくる。あるいは 「荒らし」とか荒れ狂う非難とかに嫌気が差す。そういった理由で発行 から遠ざかったり止めてしまう……のではないか、と、これはぼくの想 像だけれど。ともあれ、長続きするメイルマガジンは珍しいのだが、ひ とつ、もう足かけ三年ばかり(断続的にではあるものの)続いているも のがある。

 最初、ぼくが読み始めた頃は、その子(女)は十五歳の中学生だった。 十五歳の人間らしく、青臭かった。文章やことば遣いは「いまどきの子 ども」風だったけれど、書いていることや想っていることは真面目だっ た。社会の不正義や世界の不条理に憤っていた。九歳上のメル友に会い にいって誘惑されかかり、それについて世の中のつまらない大人に怒り をぶつけていた。「『つくる会』の教科書」について問題提起し、読者 からアンケートを募ったりしていた。かと思えばその年頃らしく恋愛の 話(コイバナというヤツだね)もあった。本人はパイロットか医者にな りたいと思っているらしかった。

 すべてが微笑ましかった。こんな風にまじめに考えながら日日を送っ ている子もまだいるんだなと思った。「……もいるんだ」と思ってしま うのがちょっと哀しかった。微笑ましかったのはそれだけではなく、そ のいい意味での稚さ(おさなさ)にも好感が持てた。十五歳である。偉 そうなことを言い世界のことも世間のことも判っている風でいて何も判っ ていない。それでも、真剣に世界のことを考えている。そう、そんな時 はあった。たぶん誰にでも。

 そして時は過ぎ……その子は高校で運動部に入ったがもともと体は弱 く、部活についていけずに止めた。念願だった(部活では禁止されてい た)髪を染め、アルバイトを始めた。志望はスチュワーデス(おっと、 最近では「フライトアテンダント」というんだ)に変わり、メイルマガ ジンで書くこともだんだん自分の身の周りの現実に限定されていった。 男とつき合ったらそれは最低の奴だった。でももっといい男がそばにい て、彼女も救われたようだ。

 そんなことがあり、途切れがちながらもメイルマガジンは三年近く続 いている。最近ではことば遣いもきっぱり「いまどき女子高生」だし、 内容も恋の話かアルバイトの話限定だ。時時進路や勉強の話が出る。 十五歳だった女の子も十七歳になった。部活を止めた。アルバイトで働 き出して世間を知った。自分の進路を冷静に考えるようになった。素敵 な恋人も見つけた。辛いこともひとつならずあった。職場で厭なことが あってもアルバイトは止めないらしい。そんな風にして、成長していく。 毎日違う現実に出逢いながら。

 彼女はもう《無邪気》ではないだろうか。彼女の中で、世界はどんど ん色褪せていっているだろうか。たった二年前に考えていたことはもう 跡形もなく彼女の心から消えているだろうか。そうかも知れないし、そ うでないかも知れない。ぼくには判るよしもないし判る筋合いでもない けれど、ただひとつ願う。

 つまらない大人にはなっちゃいけない。

 と書いてくると、どのメイルマガジンか判る人にはお判りだろう。作 者ご本人がこれを読んでいることはあり得ないが、作者ご本人にちくっ てくださってもかまいません。無断転載にはなっていないと思うが、ま ずいことを書いているなら対応します。

(2002.12.08)

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