「書く」ことから僕の英語は始まった コレポン修行
トミー工業に採用してもらって僕は一生懸命勉強した。不思議なことに、「一生懸命働いた」、という感覚はなかった。 (今度つぶれれば俺は終わりだ) という意識は強烈に持っていた。その意識が仕事の方より、まず語学の習得へと僕を駆り立てた。 「英語が出来るようになれば喰いっぱぐれがない」 とも思い、 「国際ビジネスを天職と見定めたのだから、まずは英語が勝負だ」 とも思った。 独りで住んだアパートにテレビは置かなかった。ステレオなども無く、小型ラジオだけが有った。そのラジオのチューナーをFENの英語放送に合わせた僕は、その選局スイッチを窓から放り投げてしまった。 引き続き、夜の英会話学校にも通ったし、週刊の英字新聞「毎日ウィークリー」を取り始めた。「毎日ウィークリー」はレベルの低い学習者向けに、記事の下に主要な単語の訳を示してくれているので、初学者でも何とか続けていけるのだ。 しかし、何と言っても役に立ったのは、トミーで受けた、実際の英文通信の添削指導だった。 (以下略) 僕の英語力はだから、普通の人とは異なり、英作文から始まったといって良い。普通の人が目指す、「英会話力」にはそれからもずっと自信を持つことが出来なかった。 「聞く、話す、読む、書く」という英語の基本四能力の中で、「書く」ことは他の三つの技能より難しい、と言われる。ところが僕の英語の場合は、殆ど「書く」ことから入っていったわけだ。 僕に言わせれば 「英語を書く能力は他の三つの能力より難しいのではなく、『書く』こと自体が独立した能力で、他のものとの相関性は低い」 ということだ。 例えば僕は国文科出で、「書く」ことについて訓練されていた。僕にとって日本語を書くことはそう苦痛ではない。そして言語が変わっても、この傾向は変わらないものらしい。 逆にいえば、20代を通じての僕の英「会話」能力は、僕が書いていたビジネス・コレポンよりよほどひどいままのものだった。僕の英語は文字通り「机の上の英語」だったわけだ。 「山田さんは、自分が書くように話してみたら」 とまで言われたものだ。
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