[ 第13話 二日目 ] |
− がらがらがら − アルファが初瀬野家の玄関をくぐる。 「ただいまぁ。」 !?っ あわてて、外を振り返る。 「いま、何か足元を...」 「あ、アルファ...」
すなわち、『テキ見なかったか?』である。 「じゃ、俺は商店街の方探すから、アルファは通り沿いに見てってくれ。」 「はい!」 さっそく捜索が開始される。 「テキー?」 「テーキ!」 「出てらっしゃーい!」 二人の声が少しずつ遠ざかっていく。 宗一郎は西へ、アルファは東へ。 「あ、おばさん、仔犬、見かけませんでした?」 人がいれば手当たりしだいに聞く。 「犬なんてもう何年も見てないよ。」 大概こんな返事である。 しかし、8人目は違っていた。 「茶色の? あっちに走ってったよ。」 川の方を指す。 一瞬アルファの脳裡に、おぼれているテキの姿が浮かぶ。 「ありがと、おじさん。」 礼も草々に駆け出す。 「テキー?」 道すがら、さっきよりも大声で呼ぶ。 昨日の今日で、”テキ”が自分のこととわかりはすまいが、今はこれしかない。 「テーキ!」 だが、何もないまま川に出る。 幅20mほど、川原は丈の高い草で地面が見えない。 流れは穏やかだが仔犬にとってはそうでもあるまい。 大きく息を吸う。 「テキー?」 ・ 川沿いに下流へと歩きながら、仔犬の名を呼ぶ。 ・ 聞こえるのは水の音だけ。 ・ 「テーキ?」 ・ 釣り人にも聞いてみたが覚えはないという。 ・ 「テキー?」 ・ 風が出てきた。 ・ 「テーキー!」 もうどれだけ歩いたか。 いつしか薄く涙も浮かんでいる。 まったく見当違いのところを探しているんじゃないかと思えた、その時。 迫る夕暮れに融けそうな色が動いた。 !! 一直線に駆け出す。 胸まである草がもどかしい。 と、いきなり砂の地面がひらける。 そしてそこには、さっきの色がいた。 「...ぇ...」 ...ただの流木である。 茫然と立ち尽くすアルファ。 風がひとつ、吹いた。 こぶしをギュッと握る。 涙を拭く。 「テキー?」 また歩き始める。 「テ...!?」 流木のカゲ。 何かゆれている。 シッポ? 見間違えではなかったのだ。 ヒュッ
! すぐにアルファに気づく。 「wAn!」 とても元気そうだ。 「...」 ”力が抜ける”とはこういうことを言うのだろう。 その場にへたり込んでしまう。 涙がまたあふれる。 !!!!! ついには声を出して泣き始めてしまう。 一瞬腰の引けたテキだったが、ただならぬ雰囲気はわかるのだろう。 アルファのもとに走りよる。 でも、どうすることもできず、泣きじゃくる彼女の周りをおろおろするだけだった。 2時間後。 陽はとっぷりと暮れている。 初瀬野家 玄関前。
「ちょっと待ってー!」声を求めて垣根を曲がると、そこにはアルファが。 胸に抱えられたテキが、彼女のほっぺにキスしている。 その顔は涙のあともあるが、今は笑顔そのものだ。 「あ、ほら、ただいまって。」 宗一郎に気づいたアルファが、テキを促す。 「wAN! wON! wAN!」 二人の無事に安心すると、急に、家族が増えた実感が湧きあがる宗一郎であった。 →翌日
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−あとがき− 仔犬ってな絶対1回は行方不明になるものですよね。(笑) 見つかったときって、探してる間の感情がみんな出てきちゃってタイヘンなんです。 |
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