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[ 第13話 二日目 ]

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2065年:テキ
      
 − がらがらがら −
 
 アルファが初瀬野家の玄関をくぐる。
 
 「ただいまぁ。」
 
 !?っ
 
 あわてて、外を振り返る。
 
 「いま、何か足元を...」
 
 「あ、アルファ...」
 
 にして現れた宗一郎だが、玄関で外を向いているアルファを見て、続くセリフを失う。
 
 すなわち、『テキ見なかったか?』である。
 
 
 
 「じゃ、俺は商店街の方探すから、アルファは通り沿いに見てってくれ。」
 
 「はい!」
 
 さっそく捜索が開始される。
 
 「テキー?」
 
 「テーキ!」
 
 「出てらっしゃーい!」
 
 二人の声が少しずつ遠ざかっていく。
 
 宗一郎は西へ、アルファは東へ。
 
 
 「あ、おばさん、仔犬、見かけませんでした?」
 
 人がいれば手当たりしだいに聞く。
 
 「犬なんてもう何年も見てないよ。」
 
 大概こんな返事である。
 
 しかし、8人目は違っていた。
 
 「茶色の? あっちに走ってったよ。」
 
 川の方を指す。
 
 一瞬アルファの脳裡に、おぼれているテキの姿が浮かぶ。
 
 「ありがと、おじさん。」
 
 礼も草々に駆け出す。
 
 「テキー?」
 
 道すがら、さっきよりも大声で呼ぶ。
 
 昨日の今日で、”テキ”が自分のこととわかりはすまいが、今はこれしかない。
 
 「テーキ!」
 
 だが、何もないまま川に出る。
 
 幅20mほど、川原は丈の高い草で地面が見えない。
 
 流れは穏やかだが仔犬にとってはそうでもあるまい。
 
 大きく息を吸う。
 
 「テキー?」
 
   ・
 
 川沿いに下流へと歩きながら、仔犬の名を呼ぶ。
 
   ・
 
 聞こえるのは水の音だけ。
 
   ・
 
 「テーキ?」
 
   ・
 
 釣り人にも聞いてみたが覚えはないという。
 
   ・
 
 「テキー?」
 
   ・
 
 風が出てきた。
 
   ・
 
 「テーキー!」
 
 
 
 もうどれだけ歩いたか。
 
 いつしか薄く涙も浮かんでいる。
 
 まったく見当違いのところを探しているんじゃないかと思えた、その時。
 
 迫る夕暮れに融けそうな色が動いた。
 
 !!
 
 一直線に駆け出す。
 
 胸まである草がもどかしい。
 
 と、いきなり砂の地面がひらける。
 
 そしてそこには、さっきの色がいた。
 
 「...ぇ...」
 
 ...ただの流木である。
 
 茫然と立ち尽くすアルファ。
 
 
 風がひとつ、吹いた。
 
 
 こぶしをギュッと握る。
 
 涙を拭く。
 
 「テキー?」
 
 また歩き始める。
 
 「テ...!?」
 
 流木のカゲ。
 
 何かゆれている。
 
 シッポ?
 
 見間違えではなかったのだ。
 
 ヒュッ
 テキ
 トンボを追いかけて仔犬が現れる。
 
 !
 
 すぐにアルファに気づく。
 
 「wAn!」
 
 とても元気そうだ。
 
 「...」
 
 ”力が抜ける”とはこういうことを言うのだろう。
 
 その場にへたり込んでしまう。
 
 涙がまたあふれる。
 
 !!!!!
 
 ついには声を出して泣き始めてしまう。
 
 一瞬腰の引けたテキだったが、ただならぬ雰囲気はわかるのだろう。
 
 アルファのもとに走りよる。
 
 でも、どうすることもできず、泣きじゃくる彼女の周りをおろおろするだけだった。
 
 
 
 
 2時間後。
 
 陽はとっぷりと暮れている。
 
 初瀬野家 玄関前。
 帰らないアルファ
 プラス一人分の心配をしながら待つ宗一郎に聞こえてくる。
 「ちょっと待ってー!」
 
 タッタッタッ
 
 「だから、もっとゆっくり!」
 
 ピョンッ
 
 「うわっ、こら!」
 
 声を求めて垣根を曲がると、そこにはアルファが。
 
 胸に抱えられたテキが、彼女のほっぺにキスしている。
 
 その顔は涙のあともあるが、今は笑顔そのものだ。
 
 「あ、ほら、ただいまって。」
 
 宗一郎に気づいたアルファが、テキを促す。
 
 「wAN! wON! wAN!」
 
 二人の無事に安心すると、急に、家族が増えた実感が湧きあがる宗一郎であった。
 
→翌日
    
 

 
     −あとがき−
 
 仔犬ってな絶対1回は行方不明になるものですよね。(笑)
 
 見つかったときって、探してる間の感情がみんな出てきちゃってタイヘンなんです。
 
    

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