ヨコハマ買い出し紀行ロゴ(小青) アウトサイドストーリーロゴ

[ 第15話 ]
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2057年:ひとめで
      
 後ろから、小走りな足音が近づいてくる。
 
 立ち止まって振り向くと、同時に脇を駆け抜けていく。
 
 「おはようございます。」
 
 なんて言いながら。
 
 俺は目で追いながら、
 
 「あぁおはよう。」
 
 と返すが、届いたかどうか。
 
 .....
 
 おっと、ぼーっと見送っちまった。
 
 でも、誰だ、あれ?
 
 あの後ろ姿には見覚えがない。
 白 い ツ ナ ギ
 俺が着ているのと同じカバーオール
 
 横顔と、さっきの声、肩までの髪、走り方。
 
 女の子には間違いない。
 
 ハッキリは見えなかったが、左肩のチームワッペンは、俺に支給されたのと同じだ。
 
 てことは、あのも次のフライトで行くんだな。
 
 もっとも次の次は2年も先だが。
 
 それにしても、誰かチームに加わるなんて聞いてないぞ。
 
 誰か...誰なんだ?
 
 ほんの一瞬だったはずなのに、さっきの横顔をハッキリと想い出せる。
 
 .....?
 
 何だろう、妙に気になる。
 
 .....
 
 午後のミーティングはチーム全員でやるはずだから、その時にわかるよな。
 
 .....
 
 次の予定は9時か。 まだ1時間以上ある。
 
 .....
 
 よし、ちょいと探してみるか。
 

 
 − Pi Pi Pi Pi −
 − Pi Pi Pi Pi −
 
 「う〜ん、」
 
 − Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi −
 
 ハッ (がばっ)
 
 「あー、寝過ごしちゃったー!!」
 
 .....
 
 「あ、いいんだ。」
 6:50
 目覚まし時計は、ちゃんとセットした時間に鳴ってる。
 
 ん〜っ ふぅ
 
 いよいよ今日からね。
 
 朝日がカーテン越しでもまぶしいくらい。
 
 さ、着替えなきゃ。
 
 − ぴんぽんぱんぽん −
 
 『ただいま着替え中。 しばらくお待ちください。』
 
 − ぱんぽんぴんぽん −
 
 ん、よし。
 
 バイクをいじるときの作業着みたいなツナギだけど、純白でなんだか新鮮。
 
 鏡の前でまわったりなんかして。
 
 んふふ。
 
 
 さて、今日はまず、健康診断の予定。 それだけは夕べ確認しておいた。
 
 8:00までにメディカルセンターに行けばいい。
 
 えっと、地図、地図...
 
 あ、これかな。 広げると予想外に大きい全域図、一辺2m近くもある。
 
 今いる宿舎はここ。 南ゲートを入って、昨日来た道をたどればすぐわかる。
 
 でも、メディカルセンターは、...ない...ない...ない...あ、ここだ。
 
 わっ、ずいぶん遠いな。
 
 この地図のスケールが10000分の1だから、だいたい10Km?
 
 えー!?
 
 今、7:15、歩いたら絶対間に合わない! 走ってぎりぎりかも!
 電気自動車
 あ、コミューターとかあるはずよね。
 乗り場
 コンコースは...あった。 けど、それでも1Kmもある。
 
 コミューターは30Km/hもでないだろうし、直線で10Kmでも実際はもっとあるだろうし、
 
 あっ、こんなこと考えてる間に行かなくちゃ!
 
 
 − タッタッ −
 
 寝起きでマラソンはきついー。
 
 あー、朝御飯、食べたかったのになー。
 
 − ハッハッ −
 
 あ、同じの着た人が前歩いてる。
 
 きっと、お仲間さんなんだろうな。
 
 でも、
 
 「おはようございます。」
 
 なんて言いながら駆け抜ける。
 
 「あぁおはよう。」
 
 ? よく聞こえなかったけど、たぶん挨拶を返してくれたんだと思う。
 
 でも止まってる余裕はないの、ごめんなさい!
 
 − ハッフッハッ −
 
 おなかすいたよー。
 


 
 「以上が今回のミッションの概要である。」
 
 プロジェクタ・スクリーンの横で、機長の影が言う。
 
 「次に、使用するシャトルだが、」
 
 合図をしてスライドを換えさせる。 白と黒の、尖塔型の機体が映る。
 グラハムタイプ14号機
 「この、グラハム・ノベンバーを使う。 と言っても、もうこれしか残ってないんだがな。」
 
 そのとき、
 
 − Pi Pi −
 時 計
 機長のクロノグラフである。
 
 「お、こんな時間か。 では、休憩を入れる。
再開は15:30、遅れるなよ。」
 
 最後の言葉は特定の人物に向けられていた。
 
 ミーティングに一人だけ遅れてきたのがいたからだ。
 
 「う〜ん、あの機長、根に持つタイプかな。
ねえ、君。」
 
 ん〜っと、伸びをしていた紅一点に声をかける。
 
 「え? あ、はい。
えっと、でも、遅れるのはやっぱりよくないですよ。」
 
 「まぁ、そうなんだけどね。 ところで、」
 
 『昼食の後も君を探していたんだよ。』とはさすがに言えないらしい。
 
 「君もPhoenixの乗組員なのかい? 今まで見たことないけど。」
 
 「いえ、私は基本的には、お世話になるだけです。」
 
 「? ってことは、何かの研究員? なのに搭乗員の訓練に参加してるの?」
 
 「ええ。 何事も経験ですから。」
 
 「へぇぇ。 すごいな。」
 
 「そんな、まだ始めたばっかりですし。」
 
 「今日から? あ、そういや今朝はずいぶんあわててたようだけど?」
 
 「?」
 
 ちょっと首を傾げる。
 
 「一応、挨拶はしたつもりなんだけどな。」
 
 「あっ、ごめんなさい、ホントに急いでたんです。
メディカルセンターがあんなに遠くだなんて思わなくって。」
 
 「あぁ、結構あるね。 でも、」
 
 何か言いかけるのをさえぎって続ける。
 
 「ゆうべのうちに今日の予定をよく調べておけばよかったんですけど、
汽車が遅れて、ここについたのが0時すぎで。」
 
 「うん、ここへの交通手段、ほとんどないからね。
でもさ、」
 
 「はい?」
 
 「メディカルセクションなら、支所が宿舎のすぐ近くにあるよ。」
 
 「えー! そうなんですか? ...それでセンターの人、不思議そうな顔してたのか...
 
 今朝の苦労を想い起こしているのか、ぼーぜんとしている彼女に一言。
 
 「えー、おつかれさまでした。」
 
 「あ、はい、ありがとうございます。」
 
 なんて言って笑い合う。
 
 「ここは結構広いしね、わからないことがあったら何でも聞いてよ。」
 
 「はい。
あ、えっと、」
 
 右手が差し出される。
 
 「ニコライエフ、 ニックでいい。」
 
 「アルファです。 よろしくお願いしますね。」
 
 「こちらこそ。」
 
 握手を交わしながらそう言うニックがいつになく嬉しそうな笑顔をしているのに気づくはずもないアルファであった。
 
 ただし、ニック本人も気づいていないようではあるが。
 
    
 

 
     −あとがき−
 
 第4話のちょっと前のお話です。
 
 が、今回の話に特別な意味はありません。 今月号('99.06月号)を読んで、室長の話が書きたくなっただけです。(笑)
 
 まぁ、アルファー室長とニックの出会いの話ではあるんですが、室長の方はまだ男を異性として意識するはずもないですよね。
 
 それ故か、室長、あいかわらず初対面の人間に無防備だし。
 
 ニックはアルファーに一目惚れみたいなものですね。 このあと、彼女がロボットだと知ってどうするのか見ものです。(無責任)
 
    


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