ダブルキャスト
GOODEND1 「ダブルキャスト」〜中編〜
軽やかなリズムの音楽を聞きながら、試着のカーテンの前で、他の女の子達の視線に、今僕は耐えている。
水着売り場。男にとっては、とても入りづらい場所・・。
「ねぇねぇ・・あの人、彼女待ちかなぁ?」「そうじゃない?だって、こんなところに普通男の人が1人で来るはずないし・・」「そっかー・・。」
その会話が耳に入り、ちらりとそっちの方を伺うと、結構可愛い女子高生2人が、こっちを見ていた。
やはりこの場合、「あの人」とは僕の事だろうか。
・・シャッ。
「こら!なーに見てるの?」「!! し、志穂!!べ、別に、あの子達を見てたわけじゃ・・。」「え?・・・ふーん。私はてっきり、そこのマネキンが着てる派手に胸の開いた水着かと思ってたけど・・へーぇ、
あの可愛い女の子達見てたんだ・・」「!!」「・・もう、知らないっ!」「ごっ、ごめん志穂!怒らないでよ!」
シャッ、と再びカーテンがしまる。
「・・やっぱり、渡せない・・」「え?」「なんでもない!そーですよーだ、私はどうせっ、あの子たちに比べたら、若くないもんねっ!別にいいわよ、どーぞ勝手にご覧くださいませ!」「・・志穂・・。
ごめんってば・・」「・・・・・・・」「どうしたら許してくれる?」「・・・・・・・2着。」
カーテンで水着に着替えているであろう体を隠し、顔だけを見せてポツリと志穂がつぶやくように言った。
「・・・・2着?」「・・・・2着。」「・・・・・・・」「今着たやつと、さっき着たやつ・・・。」「・・・・・・本当?」「・・・・・・本当。」「・・・・うん・・分かった・・」「えっ、本当!?」
今度は勢いよく、カーテンが開く。
「・・あ・・志穂、その水着」「・・分かっちゃった?そう。去年の夏着た奴と、同じのがあったから、着てみたの。どう?」「・・すごく似合ってる。」「・・ん、ありがとう。でも・・許してないもんねっ」
「はいはい。ちゃんと買ってあげますよ。」「生活費じゃなくて、お小遣いから買ってね?」「う゛っ・・わ、分かってるよ。」「よっし、やったぁっ!」
僕が一番大好きな、元気な笑顔を見せて、志穂がまたカーテンを閉める。
「・・・今月、あと21日どうしよう・・」
「今日はいーものたっくさん買ってもらっちゃったなぁーっ!」「・・それは、よかったね、志穂・・」「なによ、元気ないなぁ・・」「いや、別に・・」「えーっと、あとは・・フライ返しも買ったし・・夕食のカレールーも買ったし・・水着も予定外の2着買ってもらっちゃったし!」「・・・・・・そうだね・・。」「もうっ、私がせっかく喜んでるのに・・」
自動販売機でジュースを買って、僕達は駅へと向かっていた。
日差しが和らいで、優しい風が頬をかすめていく。
志穂の長い髪が、時折ふわりとなびく。
「・・ん?わっ!」「え?どーしたのっ?」「・・ううん・・なんか、今変な・・なんだろ。」「変な?なに?」「うん、人みたいなのがいて、ぶつかりそうになっちゃったんだけど・・いないよね。」「・・・・・・・
あ、あ・・そう・・」「うん。多分見間違いだよ。あそこの雑貨店の鏡で、そう見えちゃったんだと思うから・・」「・・・・・・・」「? 志穂?どうしたの?」「・・えっ?あ、う、ううん・・なんでもないの。」
あきらかに、様子が違った。
まるで、“どうして?”という表情だった。
けれども、そのあとの志穂の行動を見て、すぐに忘れてしまった。
その疑問を。
「雑貨店って、あそこの?」「うん。新しく出来たんだって。」「へぇ・・!?」
次の瞬間だった。
だっ、と、志穂がいきなり車道に走り出した。
「志穂!?危なっ・・」「・・っ!」
車が、急ブレーキを踏んだらしく、キキーッという音を出して止まった。
それでも、志穂はそこの雑貨店めざして、走っていった。
「ねえちゃん、急に走んじゃねえよ!危ないだろうが!!」「す、すいません!」
志穂のかわりに謝りながら、僕もその雑貨店へと向かった。
道路には、志穂が飲んでいた紅茶の缶が落ちていた。
「志穂!?」
急いで中に入ると、店員はびっくりしたようにこっちを見て小さく「いらっしゃいませ・・」と言った。
店内は、カントリー調でまとめられている、結構好きなタイプの店。
店内を見回すと、窓側の方に志穂がいるのが見えた。
「志穂・・・」「・・・・・」「どうしてあんなことしたんだよ?」「・・・・・・・」
志穂は、僕に答えず、ただあるものに見入っていた。
「・・・・・・?」
それは、小さなオルゴールのような箱だった。でも、中は何かが入れられるようで、鍵までついている。
横には、「この中に、願い事を書いた紙を入れると、その願い事が叶います・・・・」と、札があった。
「・・これ・・・」「志穂・・これがどうかしたの?」「これ・・・っ」「志穂、だからこれがどうかしたの?」
言い終わる前に、志穂はそれを持ってレジへと歩いていった。
僕は、一体志穂がどうしたのか分からず、ただ呆然とそれを見ていた。
「ありがとうございましたー。」
僕と志穂は扉を開けて外に出た。
さっきのあの風が嘘のように、風が冷たくなっていた。
続く