この章では疑問詞、関係詞の話をします。
表題にいきなり「相関詞」なんてことばが出てきて訝(いぶか)ってい る人も多いのではないでしょうか。 このことばは 〈16箇条〉には出てきま せん(それを言うなら疑問詞や関係詞自体が出てこない)。
「相関詞」という品詞があるわけではありません。いくつかの代名詞、 形容詞、副詞の一群が、語の形や用法に相関関係があるので、このよう に呼ばれているということです。
選択疑問文というとカタいですが、「はい」か「いいえ」で答えられ る形式の疑問文をいいます。
この形式の疑問文は、平叙文の先頭に疑問詞cxuをつけるだけで できます。
(平叙) Vi preferas teon. -- あなたはお茶が好きです。
(疑問) Cxu vi preferas teon? -- あなたはお茶が好きですか?
(平叙) Oni malpermesas fumi tie. -- ここで喫煙することは禁じられています。
(疑問) Cxu oni malpermesas fumi tie? -- ここでは喫煙は禁止されていますか?
先頭の疑問詞cxu 以外には、平叙文と語数、語順、語形、ともまった く変える必要はありません。(発音する時には、文末を上げるように発 音します)
否定疑問文も通常のものと変わらず、否定文の先頭に疑問詞cxu をつける だけです。
(平叙) Vi ne preferas teon. -- あなたはお茶が好きではありません。
(疑問) Cxu vi ne preferas teon? -- あなたはお茶が好きではないのですか?
選択疑問文への返答は、肯定するならjes (ィエス)、否定するなら ne(ネ)を使います。
否定疑問文への返答の場合も、「質問されている事柄」を肯定するな らjes、否定するならneです。
よく「否定の場合は日本語とは逆」などと言いますが、それで憶える と確実に混乱します。次のような憶え方をお勧めします。
質問されている事柄をA(例・「あなたはお茶が好き」)とする。
問い方が「Aか?」(通常の疑問文)であろうが、「Aではないの か?」(否定疑問文)であろうが、「Aである」と答えるなら「jes」、 「Aでない」と答えるならne。
付加疑問文とはこういうものです。
Vi preferas teon, cxu ne? -- きみってお茶が好きだよね?
文本体は平叙文なんですが、最後にちょこっと疑問文のかけらがくっ ついている。本体が否定文なら、くっつくかけらはこうなります。
Vi ne preferas teon, cxu? -- きみってお茶が好きじゃなかったよね?
日本語だと「……ですね、違いますか?」という感じでしょうか。 形式上は疑問文ですが、ニュアンスとしては単なる質問ではなく、事実 を確認していると考える方がよいようです。つまり、普通の疑問文は、 質問している人が問題の事柄について知らない(あるいは確信がない)場 合に使われますが、付加疑問文は、質問する人が問題の事柄を知ってい る(あるいは確信がある)場合に使います。上の例で言うと、「この人は お茶が好きなんだ(好きじゃない)よなぁ、でも念のために訊いてみよ う」、という感じです。
疑問詞cxu は選択疑問文の目印になるほか、いわば 「疑問の意を表す名詞節」を形成しま す。単独の疑問文と殆ど形は変わりません。
上の例(2)は、間接疑問文という形でもあります。
あるいは、疑問の意を呈する動詞の目的語節として――
寄り道なので飛ばしてもまったく問題ありません。
上で「疑問の意を表す名詞節を形成し」と述べましたが、本によって は「接続詞用法」などと説明されたりしています。使う上ではそんなこ とを気にすることはないというのが筆者の意見です。
上の用法を「疑問詞cxuが接続詞的に使われている」と見ようが、 「cxuには疑問詞としての意味と接続詞としての意味とがある」と解釈 しようが、実際の使われ方が変わるわけではないので、こだわることに あまり意味がないと思います。大切なのは「こういうときにはこういう 語句を用いるんだ」「こういう風に使うとこういう意味が伝わるんだ」 ということを憶えることでしょう。
「~かどうか」という疑問の意味を含む節(文)をまとめるのに、疑問 の意を表すcxuを使うのは自然なことだと思います。それはもともとcxu に接続詞としての意味があったかどうかとは関係ないのではないでしょ うか。きっとことばっていうのはそういうもので、「こうするとなんと なく落ち着きがいい」とか「感じが出る」とか「インパクトがある(笑)」 とかいう理由で用法(ことばの使い方、文の表し方)が開発されたり整っ ていったりするんじゃないでしょうか。その結果、文法的には入り組ん で見えたり乱れて見えたりするのはやむを得ないでしょう。
乱暴に言ってしまえば、品詞分類というのは生きて動いていることば を捕まえて、それを無理やり分解して収まりのいい形にはめ込もうとす るようなものです。そんなことは、生きて動いていることば自身にとっ てはどうでもいいと言えばどうでもいい。生きているコトバを後から追 いかけて「理屈をつけ」ていく以上、「きれいな分類」「きれいな体系」 は不可能だろうと思われます。自然言語ってそういうものなんじゃない かなと思うようになったこの頃です。(そして、もちろん、この意味で もエスペラントは紛れもない自然言語なのです)
一般疑問文というとやはりカタいですが、「はい」か「いいえ」で答 えられる内容でなく、もっと幅の広い問い方をする形式の疑問文をこう いいます。
地図を頼りに初めての家を訪れた時、「こちらはタナカさんのお宅で しょうか?」と訊きます。逆に、家にとつぜん見知らぬ人がやってきた とき「あなたはマエダさんですか?」などと問うことは、まず、ありま せんね。そのときには「どちらさま?」とか「どなた?」とか「あなた は誰ですか?」と訊ねます。
「どなた?」と訊かれて、「はい、そうです」とは、普通は答えませ ん。「モモヤマです」とか「フニクラです」とか答えます。このように 訊く内容もそれへの返答も幅の広い問い方をする文を一般疑問文と言い、 「答えて欲しい事柄」を示すことばを疑問詞と言います。下の例文が一 般疑問文で、太字の部分が疑問詞です。
Kiu vi estas? -- あなたはどなたですか?
Kio estas tio? -- これは何ですか?
Kion vi prenas? -- あなたが手にしているのは何ですか?
疑問詞は「何についてを問うているか」を示すことばですから、「何」 に応じていろいろな品詞の疑問詞があります。
疑問詞を使いさえすれば疑問文が出来上がるわけではなく、作り方の 規則があります。
以下に例を示します。
Kial(なぜ)に対しての答えには、Cxar(~なので)という接続詞を立て るのが一般的です(使わずに普通の文として"Vi teruris min."などと だけ言っても通じるかと思います)。
なお、答えを知らない場合にはMi ne scias. (知りません) などと答 えます。
疑問詞は単独の文を作るだけでなく、複文にも用いることができます。 その場合、名詞節となって次のように文の「主語」になったり「補語」 になったり「目的語」になったりします。
関係詞というものは日本語にはないので、戸惑う人が多いかもしれま せん。実例を見せる方がいいでしょうか。
1 では、"kiuj ne sxatas futbalon"(……はサッカーを好きではない) というのがひとつの文をなしていますが、これ単独で文になっているの でなく、kiujという単語によって直前のhomojを修飾しています。 それで全体が「サッカーが好きでない人たちもいる」という意味になり ます。このkiu(j)が関係詞(これは関係代名詞) と呼ばれるもの です。修飾される語句を先行詞といいます。
2 では、"kiun vi renkontis hieraux"(あなたは昨日……に会った) という文がLa viroにかかっています。このように、関係代名詞は修飾 する文の中で目的語になることもあります。
3 では"kiu ne amas vin"という文がtiun homonを修飾しています。 このように、先行詞が目的語である(が、関係詞は主語)ということも あります。この例ではさらに、homonの前のtiunが関係代名詞kiuと照応 しています(tiu ... kiu)。これは一種の「係り結び」のようなもので、 関係詞とそれが修飾する語が離れていたり、紛らわしかったりするとき に、このような形になります。
関係詞は関係代名詞だけではなくて、4のkielように、関係副詞とい うのもあります。この場合、先行するtielが修飾される語の目印となり ます。ほかにも関係形容詞というのもあります。
関係詞(関係代名詞、関係形容詞、関係副詞)は、必ずそれを伴う節を 作り、複文を 形成します。関係詞が導く節を、関係詞節と呼びます。
以下に例を示します。
関係形容詞、関係副詞の使い方は関係代名詞に比べると難しく、筆者
もまだちゃんと使いこなせていないので、ここでは省略させていただき
ます(_ _)
ここまでで、「あれっ」と思った人も多いに違いありません。この関
係詞、疑問詞とまったく形が同じです。だから片方を憶えれば自動的に
両方憶えたのと同じことになります(^^)
でも、使い方の規則もなんだか似ているし、実際の文の中でどちらだ か見分けがつかなかったりしないのでしょうか……? さいわい、そん なことはまずありません。何といっても一方は疑問詞ですから、明らか に疑問の意を表す文で使われます。そして疑問の意を示すわけですから、 その対象は文の中にはありません(出てきたら「自問自答」しているこ とになりますね)。もう一方は、修飾対象である先行詞が存在します。 つまり、文の形が疑問詞と関係詞では異なってくるので、混乱すること はまずありません。(もちろん、一般疑問文の中に関係詞節が入り込む ようなことはあります)
こういうこと、つまり「ひとつ語が異なる意味、役割に使われること」 は、実は自然言語の世界ではわりと当たり前にあることなんですね。当 たり前どころか、「自然言語による意思疎通」ということを考えると却っ て重要なことでもあるようです。これについては言語学の立場から研究 がされたりもしています。
冒頭でもちょっと述べましたが、「相関詞」という品詞があるわけで はなく、指示代名詞や指示形容詞(「その(人、もの)」とか「そんな」 など)、疑問詞、その他の代名詞・形容詞・副詞が形が似通ってお り、意味が相互に関連している ためにこのように呼ばれます。
たとえば日本語には「こそあど」ことばというのがあります。場所を 示す「ここ、そこ、あそこ、どこ」、ものを示す「これ、それ、あれ、 どれ」、形容を表す「こんな、そんな、あんな、どんな」、など、似通っ た形のことばたちが関連する意味を持っています。それと同じような ものがエスペラントにもあるということです。
以下に、相関詞を表にして示します。整い具合を鑑賞してください。
疑問 | 指示 | 不定 | 全称 | 否定 | |
---|---|---|---|---|---|
もの・こと(代) | kio なに | tio それ | io なにか |
cxio すべて | nenio 何も……ない |
人・もの (代/形) | kiu 誰か | tiu その人、それ |
iu 誰か、何か。ある |
cxiu すべての。おのおの |
neniu 誰も(どれも)……ない |
質・類 (形) | kia どんな | tia そんな | ia ある種の |
cxia あらゆる | nenia どんな……もない |
所有 (形) | kies 誰の、何の | ties それの、その人の |
ies 誰かの、何かの |
cxies すべての人の | nenies 誰の……もない |
場所 (副) | kie どこに(で) | tie そこに(で) |
ie どこかに(で) |
cxie どこに(で)も | nenie どこに(で)も……ない |
理由 (副) | kial なぜ | tial それなので |
ial なぜか |
cxial あらゆる理由で |
nenial どんな理由でも……ない |
様子・方法(副) | kiel どのように | tiel どのように |
iel どうにかして |
cxiel いろいろに | neniel どうしても……ない |
時 (副) | kiam いつ | tiam そのとき | iam いつか |
cxiam いつも | neniam 決して……ない |
数・量 (副) | kiom どれほど | tiom それほど |
iom いくらか |
cxiom すっかり、残らず | neniom ちっとも……ない |
表の第1行、kio, tio...のシリーズは、ものやことを総称的に(ひと まとまりとして)扱う時に用います。人に対して使う時は、「どういう人」 「こういう人」という感じになります。
表の第2行、kiu, tiu...のシリーズは、これらは代名詞としても形容 詞としても使われ、人やものを個別の対象として扱う時に用います。
(2001.08.31)
(2002.12.20: CSS対応、加筆修正)