= 眠り急ぐ奴らの街 =

≪第1回≫
≪第2回≫
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≪第5回≫ ≪第7回≫

以下 第3回

っと、目が覚めてみると、天井に裸電球がひとつ揺れている。
『大丈夫ですか?』
すぐ隣の男が小声で話しかけてきた。
『あなた一人だけ目覚めてなかったので、
私が起こしたんですが、気分はどうですか?
あと、...』
その後も男は勝手にしゃべっていたが、オレは聞いちゃいなかった。
手をのばせばココネのひざがそこにあったのに、それをこいつが現実に引き戻しやがったからだ!
オレは男を睨み付けてやったが暗さのせいか効果はなかったようだ。
しかたなくオレは男の話を聞くふりをして状況の把握に努めることにした。

8畳ほどの部屋だ。床も壁も鉄板で、いかにも船倉といった風だな。
それにこの揺れ方は船に違いない。
部屋の中には10人ほどの男達が、オレと同じようにうなだれながら座っている。
彼らもオレと同じように拉致されてきたのだろう。
せっかくの警告も役に立たなかったようだ。

だが、そうするとここにいるのはネットのお仲間さんたちか。
お? 暗くて確信が持てないが、あれは天野さんじゃないか?
ちょっと目で挨拶をしてみる。 すると向こうも返してきた。 間違いないようだ。
それと、その二人右は、ばくさんか? ずーっと昔に自己紹介のページにあった写真に似てる。
オレより年食ってそうなのがひとりだけいるな。 ロメオさんか?
他は誰が誰だ?
一発自己紹介でもしたいところだが、そうもいかない。
ドアのところに、明らかにオレたちとは空気の違うヤツが睨み付けているからだ。
たぶん、まだ話し続けている男の小声が気に入らないのだろう。
恰幅のいい、例えるならサモハンキンポーのようなやつだ。 御丁寧にランニングシャツを着てる。
オレたちが束になってもかないそうにないな。
人のことは言えないが、体育が得意そうなヤツは三人といまい。

と、サモハンキンポーがドアの小窓に目をやる。 誰か来たようだ。
かんぬきの音がしてドアが開く。

案の定、どこかの国の軍服を着た東洋人がドアの前に立っている。
オレたちを一通り見回して言う。
『天野拓美はどいつだ?』
流暢な日本語だ。 おそらく長年日本に潜伏していた草なのだろう。
だが言っていることが解せない。
オレたちの顔を知っててさらってきたんじゃないのか?
同じことを考えたらしい、オレより勇敢な誰かが言う。
『無差別にさらってきたわけじゃないだろう?』
軍服がその勇者に一瞥をくれる。 そしてコウモリのように口をゆがめて言うのだ。
『なに、写真入りの君達の名簿を、部下が無くしてしまってね。
あぁ、その部下はもういないから安心してくれたまえ。』
後半はオレたちへの脅しだろう。
だが、連れて行かれたら何をされるか想像に難くない。

みな黙っていた。
オレが気絶している間に自己紹介が行われたのだろう、
みんな意図的に天野さんから視線を外している。

『君かね?』
軍服がオレを指す。 たまたま目が合ったからだろう。
オレは自分じゃないと主張した。
『では誰かね?』
ここで、皆会ったこともない者同士だと言うこともできたが、
オレは敢えてそうしなかった。 どうせいつかはバレるのだ。
だから思いきりハードボイルドな声でこういった。
「コイツだ。」
と、ついさっきまで小声でしゃべっていた隣の男を指さしながら。

そいつはもちろん否定したが、サモハンキンポーに文字通り
小脇に抱えられてドアの向こうに消えようとしていた。

オレはその様子を見るまでもなく床に寝転がった。
みんなの非難の視線が痛かったが、オレは眠らねばならないのだ。
もちろん愛するココネに逢うためである。
もう邪魔するヤツはいないのだ。
だがひとつ疑問があった。

アレいったい誰だったんだろう?

≪つづく≫