佐伊津(せぇーつ)の西法寺(せぇーほうじ)
むかぁし、本山から御使増さまん来らすごとなっとって、西法寺じゃ
ほん準備ぃ、ううごつしようらしたそうですたい。
御使増さまん、よいよう西法寺ん前ぇ着(ち)いて、入ろうてさしたりゃ、
ちょうどメゴいねぇどんの「鰯ゃ要んなっせんか、無塩の鰯ゃ要んなっせんか」でおめぇて通りかからいたけん、
御使増さまん念のためぇ「ちょっとお尋ねしますが・・・。このお寺は、西法寺さんですね」て言わしたりゃ、
メゴいねぇどんの「いんねぇ、ここは西法寺じゃ御座っせん。”せぇほう寺”で御座す」て言わしたそうですたい。
御使増さまんびっくりして「”せぇほう寺”ですか。”西”の字と、佛法の”法”の字を書いてあるんじゃないですか」て言わしたりゃ、
メゴいねぇどんの「わしだ、夜学で御座したけん、ほげんむつかしか字は、昼は読みきりゃっせん」て言わるけん
「じゃ、ここにはお寺が何軒ありますか」て言わしたら、
メゴいねぇどん「ここにゃ、光蓮寺と”せぇほう寺”と二軒あって、阿弥陀寺て禅宗の庵が一ちょう御座す。
わしどんも昔から”せぇほう寺”ん門徒で御座す。隣村ん御領って言う所にゃ、真宗ん寺ん何軒じゃいろう固まっとりゃすとで御座す。
半里ばっかりで御座すけん、そちさん行って見なっせ」て一生懸命親切ぃ教えてくれらすそうですたい。
御使増さまん、えらい困りなして「兎の角、その寺に行って、西法寺を教えて貰おう」て思うて、西法寺ん玄関で「こんにちは」て言わしたりゃ、直ぐ御院家様ん出て来なして、大笑いじゃったて言う話んあるそうですたい。
ほりば聞かした当の西法寺ん御院主様ん「こりゃあ、佐伊津弁を使った作り話じゃろう。佐伊津んしん、”西法寺”ば”せぇほうじ”のなんのって言うもんは、子供もおらん。ほりばって面白う作ってある」て言いなしたそうですたい。