初めて電車ぇ乗らいた青年

 むかぁし、佐伊津ん青年の二人、話し合うて余所ぇ働きげ行くごてぇしたそうですたい。
佐伊津ん下から汽船に乗ればじき判るけん、島子まで歩(あゆ)うて行って、島子ぇで汽船に乗ったそうですたい。
 汽船の上で佐伊津ん言葉(ことべ)ぇで話せば、だりが聞いとるか判らんけん、汽船の上じゃ学校で習うた言葉ぇで話すごと決めっとったそうですたい。
 汽船の上で鳶の輪ば作りよったら、一人んとん 「わたしは、あの鳥は鳶と思いますが、あなたはなにと思いますか」
て言うたりゃ、もう一人んとん「わたしもあなたの言うとおり鳶と思います」ていうて、小まんか声で「慣れん言葉ぇじゃ言いにっかない。
こまんか声で、佐伊津ん言葉ぇでちぃ話そい」って言うて、こまんか声で話しあわいたそうですたい。
 熊本駅ぃ着(ち)いたら、まだ汽車ん時間に大分あったけん、電車でいぃとき見物して来うかいって、初めて電車に乗らいたそうですたい。
 電車の吊り輪ば見て「ゆうしたもんない。ちゃあんと荷物ば下ぐる所も作ってさるぜぇ」て言うて二人とも風呂敷ば吊り輪につこけんごと固結びぃ結うで、車掌さんに「わしだ熊本が初めてで御座すとん、どこが一番賑やかかなぁ」て聞いたりゃ「新市街が一番賑やかですばい。辛島町ですけん知らせますけん」って言うて、辛島町ぃ着いたら「はい、辛島町ですばい」て教えらいたそうですたい。
 二人ぃで、荷物ばほどこうとしたら、なんさま固結びした上に、人間もぶら下がっとったけん、なかなかほどけんそうですたい。
 車掌さんの「もう、発車しますばい、荷物の解けたとこで降りてはいよ」って電車ば発車させらいたそうですたい。
 二人で「わりが下がるけんわい。ぞうたんのごたる、どこまで行くっちゃろうかい。
刃物のあればいち切って良かばってない」て言い言い浄行寺ん終点まで来て、よいようして解けたけん、電車賃ば払うて、「えらいお世話になりやした。よいようして解けたばなぁ」て言うたりゃ「あなた達は沖縄でしょう。よう日本語の判んなはるばい」て慰めらいたそうですたい。