「ええー明日もだめなんですかー先輩?」
受話器越しに麻美の声が響く。
彼女との約束をすっぽかしてしまい謝るために電話した。
そのあと今日の埋め合わせを明日済ませるとの誘いを麻美はしてきたのだ。
明日は麻由との先約がある、悪いが彼女の誘いは断るしかない。
何とか麻美を納得させ僕は受話器を置いた。
麻美ごめん本当にごめん。
別の女の子と待ち合わせをしていると言うのはともかく、その女の子が麻由にそっくりな娘というのはさすがに言えなかった。
「季節を抱きしめて」ロングストーリー
「返答」 その3
作:主人公
今朝、地方番組で少しおかしな事件がニュースで流れていた。
桜木町の桜が散り始めたというものだった。
もちろん桜は花が咲けば散るもんだが、確かにまだ散り始めるには早すぎる。
まあ、話題が桜のことだけにあまり気にもとめなかったが、番組では異常気象だの専門家の話だのいろいろとにぎわっていた。
「フッフフンフフン・・・・。」
僕は鼻歌をならしながら身支度に取りかかる、久しぶりに心が弾むような気分だ。
女の子とデート、もとい記憶さがし、しかも相手が麻由にそっくりな女の子。
久しぶりに死んだ彼女と出かけるような感じが何となく嬉しかった。
八時半、今日も早く悲恋桜へと到着してしまう、相当浮かれているな僕。
確かに番組で言っていたように公園の桜の木は少し多めに散っていたような感じだった。
いくら何でも三十分も早く着いて相手がいるわけがないと思ったのだが、麻由はすでに悲恋桜の元で僕のことを待っていた。
当然かもしれないが今日も制服姿。
三十分以上も僕のことを待っていた、昨日会ったばかりの僕のことを彼女は信頼してくれていたのだ。
記憶のない状態で今頼れるのは僕だけなのかもしれない、それにしても男としていや人として感激してしまう。
「あっお兄さん・・・・。」
麻由が僕の方に微笑みかける。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あれ・・・・どうしたんですか?」
駆け寄ってきた麻由が僕の顔をのぞき込む。
「いや・・・・・何でもない・・。」
麻由のことを見とれていた僕は今の気持ちを気づかれないように麻由の前を歩いた。
桜舞い散る場所で微笑んでいる彼女が何とも言い表せないくらいに可愛く思えた。
まるで桜の妖精みたいな幼稚だがそんな感じが受ける。それほど彼女に桜が似合っていた。
ただ麻由の後ろにあるのが悲恋桜、もしあの一瞬を写真に撮ったとたとえると花を全く咲かせない桜の木がバックになっていたことが少し寂しいと言うか冷たい感じを受けたが。
記憶探し、彼女に会うのを楽しみにしていた僕だが今日の目的はデートではなくあくまでも麻由の記憶探し。
まじめになってつき合っていかないとならない。
と言っても何を基準に記憶探しをすればいいか全く見当がつかない。
唯一の手がかりが彼女の着ている制服だが、昨日それが当てにならないと言うことがわかってしまった。
とにかく麻由といろいろなところを歩いた、公園周辺、繁華街、駅周辺からデパートの中まで
とにかく思い当たるところは手当たり次第、しかし何の変化もなかった。
時計も十二時を回り僕と麻由は手短に和風レストランにはいる。
そこで僕は彼女に何か思い出さないか聞いてみた。
何でも良い何かかすかにでも覚えていることはないか、なにぶん今のままでは手がかりが無さ過ぎる、いや無い。
「うーーーーん・・・・・・・・。」
彼女は水を飲みながら一生懸命思いだそうとしている、目を閉じたりあさっての方向を見たり、
頭を抱えたかと思えば眉間に人差し指を押しつけたりとまじめに思い出そうとしている彼女には悪いが今の麻由を見ていると僕はおもしろかった。
「そう言えば・・・・・・・・・・・・・高いところ・・・。」
高いところ・・・・・・?
僕は麻由の言ったことを心の中で繰り返す、高いところ・・・・・・・ビルかなんかだろうか?
「高いところなんですけど・・・・・・・・どこだったんだろう?・・・・・・ごめんなさい思い出せないんです。」
彼女は申し訳なさそうに両手を合わせる。
「いいよ、高いところなら一緒に探そう、それだけわかれば十分さ。」
確かに何も手がかりがない今、麻由が高い場所に心当たりがあるというなら十分進展したことになる。
あとはその高いところ、建物であれ何であれ手当たり次第に探せばいい。
食事が終わったらとりあえず繁華街付近の建物を当たることにしたところで食事が運ばれてきた。
麻由が頼んだものは「肉じゃがランチ」。
好みまで一緒なんだなと、思った。
桜木町繁華街、この町で一番栄えているところ。
当然駅の近くに属しており地方の繁華街にしては札幌ほどではないが栄えている。
五十階ほどの超高層とは行かないが以外と高い建物が多く、僕と麻由は当分の間この付近を調べることにした。
デパートの屋上とか高層アパート、桜木タワーなど町中回らないといけないところは数え切れないほどある。
そのたびに休憩したりと忙しかった。
が、不謹慎かもしれないが麻由とデートしているような気分になっていた。
麻由、見れば見るほどあの麻由ににている。
顔つきはもちろん何から何まで彼女そっくりだ。
まるで彼女が生き返り僕のもとに戻ってきたかの様な思いにさせられる。
そんなこと・・・・・・・・あるわけがないのが・・・・・・・・・・・・・。
「なんかここも違うみたいです・・・・。」
デパートの屋上、もう何回目だろうか麻由は様々な位置で屋上から見える景色を見ているがなんか”ピン”と来ないらしい。
「そうか、しょうがないよ、また違うところに行こう。」
僕は自販で買ってきた缶ジュースを彼女に手渡す。
なにぶん歩きすぎてくたくただった、麻由もなんか疲れている感じだった。
「ごめんなさい、私のために苦労していただいて・・・。」
麻由は申し訳なさそうな顔をする。
今彼女にとっては記憶が戻らないことよりも僕のことが気になっているみたいだった。
確かにそうかもしれない、昨日会ったばかりの初対面の人に自分の記憶探しをつき合わせているわけだから。
僕としては自分でしたいだけなのだから気にしなくても良いわけだが、彼女としてはそうはいかないだろう。
だからと言って今この状況で僕と別れて彼女はやっていけるだろうか、それこそ警察にやっかいにならないと行けない。
彼女もそのことがわかっているらしく昨日と違い僕のことを頼ってきている。
時折僕の服の袖なんかをつかんだりしていた。
「ん!?」
屋上のベンチで休んでいると麻由の頭が僕の肩に当たった。
「麻由・・・・・・・。」
眠っているようだ、疲れていたんだろう。
「うっんん・・・・・・・・・・・・・・・・。」
麻由は寝ていながらも両手を僕の腕に絡ませる。
まるで僕がどこかに行かないようにしがみついているみたいだった。
彼女の手を握ってみると不安そうな顔が安心してゆるんだように見えた。
不安なんだろう、改めて痛感させられる。
僕も眠くなりそのまま目をつむった。
再び目が覚めたとき日も暮れ始めていて、僕は彼女の膝枕で眠っていた。
「あっ起きたんですか・・・・・・・・・・・・・・。」
麻由が僕の顔をのぞき込む、僕の髪をなでている彼女の手が気持ちよかった。
麻由の表情は明るかった、しかし彼女のことを考えると今の彼女の振る舞いをそのまま受け止めることが僕にはできなかった。
「なあ麻由、・・・・・・・・・今更なんだけど、僕は君の力になりたいと思っている、だからさもう僕に謝るのはやめにしよう。」
僕は彼女の顔を見つめながら話し続けた。
「無理することはないよ、なにかしてほしいことがあったら遠慮無く言って、僕気長に君につき合うからさ・・・・・・・。」
次の日、僕たちは今日も悲恋桜で待ち合わせをし、記憶探しへと歩き始めた。
麻由は僕と会うなり腕に抱きついてくる。
昨日あれから僕たちの中に進展があり、麻由も昨日以上に僕に心を許してくれた。
今日も繁華街を歩きあらゆる建物の屋上を目指す。
「先輩!?」
ビルの中に入ろうとしたとき後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
麻由によく似ている声、後ろを振り向くとそこには麻美の姿があった。
「あの・・・お知り合いですか?」
麻由が麻美の前に姿を見せた。
当然のことだが、麻美は麻由の姿を見て驚いていた。