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桜が散っている。

 

まだ咲いてそう日数がたっていないにも関わらず、町中の桜は花びらを残さぬと言わんばかりに丸裸だった。

 

数日前にテレビで言ってはいたが、こうもあからさまにその姿をさらされるとさすがに異常な感じを覚える。

 

この日は麻美のアパートの前が待ち合わせ場所となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「季節を抱きしめて」ロングストーリー

「返答」   その5

作:主人公

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんは死んだのよ。」

 

麻美に言われた言葉が僕の胸を打つ。

 

夜、たぶん午後の七時頃だろう、土砂降りの中僕は麻由を探しに走っている。

 

麻由は僕の前から消えた、僕の真意を彼女に対する気持ちを知ってしまった麻由は僕から離れていってしまった。

 

僕が悪い、とにかく今は麻由を見つけ謝るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

この日、記憶探しはいつものように繁華街から始まった。

 

と言ってももう登るビルはすべて登り尽くしてしまいはっきり言って手がかりはなかった。

 

あとは出来ることと言うととにかく町を歩き回り麻由の記憶の手がかりみたいなものを探すしかない。

 

しかし僕には考えがあっ。

どうせ手がかりもないのだから試してみようと思っていた。

 

 

 

「ありがとうございました、またお越しくださいませ。」

 

いきなりだが記憶探しを始める前にレストランで食事を済ませる。

 

まだだれも朝食を食べていなかったみたいなので手順が少し狂うもののこのレストランに入った。

 

麻由や麻美は気づいていないみたいだが、レストランに入ったところで実は僕なりに記憶探しは始まっていた。

 

これから遊園地、公園、映画館などいろいろと麻由をつれていくことにしている。

 

一見デートコースのように思えるが実はこのコースには意味がある。

 

麻由、そう生前の麻由と一緒に行った場所なのだ。

 

もしかしたら記憶を戻したとき麻由は生前の頃の麻由として僕の元へと戻ってきてくれる。

 

なにを馬鹿なことをと思えるかもしれない、いや馬鹿なことだとわかっているが僕は試してみたかった。

 

いま僕の目の前にいる麻由はあまりにも僕が好きだった麻由にそっくりだ。

 

そっくりと言う言葉では表わしきれない彼女そのものように感じていた。

 

 

 

桜並木、ここ桜木町での桜の名称の一つ。

 

この季節になると道の左右にいくつも並んだ桜の木が満開の花が咲き乱れるのだが今年はもう花が散っている。

 

「桜、散ってますね。」

 

麻由もさすがにこの光景を見ておかしく思っているようだ。

 

午後四時頃、僕の計画どおり麻由を想い出の場所へと連れていった。

 

ここに連れていったら、ここならもしかして、そんな期待を抱いていろんな場所に麻由を連れていったが、

 

僕の期待むなしく彼女に何の変化もみられなかった。

 

麻由に「どうしてここに来たんですか?」と聞かれたりもしたがいろんなところに行けば記憶の手がかりが見つかるかもしれないと言ってごまかしてきた。

 

とても僕のいまの考えを彼女に言うことは出来ない。

 

もし僕のいまの気持ちを知られたらと思うと怖くてたまらなかった。

 

この並木道の先は麻由とよく待ち合わせした場所がある。

 

悲恋桜以外によく利用した場所、それと言って珍しくもないベンチが置いてあるだけのところだが一応桜がよく見える麻由が気に入っていた場所の一つだった。

 

僕にとってはそこが最後の賭だった。

 

これで彼女が記憶を戻さなかったら、当然その確率が大きいのは僕にだってわかるが僕は賭にすがるしかなかった。

 

 

「先輩・・・・・・・・・・・・。」

 

後ろから僕を呼ぶ麻美の声が聞こえる。

 

いままで麻由にばかり気をかけていたので彼女のことをあまり気にしていなかった。

 

麻美には悪いが「そうか、いたんだっけ」と言った感じだろうか。

 

後ろを振り返り彼女を目にしたとたん背筋が寒くなった。

 

麻美が怒っている、別に彼女が怒鳴ったわけでもないが何となくそんな感じを受ける。

 

「・・・・・・・・のど・・・・・・・・乾いたので・・・・なんか買ってきてもらえませんか・・・・。」

 

麻美はそういうと財布から五百円玉を取り出し僕に差し出した。

 

いつもなら「私なんか買ってきます」とか言って自分で買いに行くのに。

 

いやそんなことよりこんな事を僕に頼むこと自体なかった。

 

僕はお金を受け取らず彼女に言われたとおり缶ジュースを買いに行った。

 

断れなかった、いまの麻美に僕はなにも言えなかった。

 

自販まで来た道をだいぶ戻らないといけなかったが。

 

 

「麻由!?。」

 

僕がジュースを持って戻ったとき、そこには麻美しかいなかった。

 

あたりを見渡してみるがやはりどこにもいない。

 

「麻美、麻由は・・・・。」

 

僕は麻美のそばに行き聞いてみたが彼女は後ろを向いたままうつむいて動かない。

 

「おい、麻美・・・・・返事しろよ。」

 

ムッとしてしまい少し怒ったように僕がそういうと、麻美は小さな声で答えた。

 

「あの娘、どっか行っちゃった。」

 

「えっ・・・・・・・・・・・?」

 

一瞬理解できなかった。

 

「どういうことだよ・・・・・・・それ・・・・・・おい・・・麻美・・。」

 

僕は無理矢理麻美をこっちに向かせ彼女の両肩をつかみ激しく揺らす。

 

「どうしたんだよ、麻由に何か言ったのか・・・・おい。」

 

僕は興奮して麻美を攻めた。

 

「何とかいえよ。」

 

 

パン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

僕が麻美を怒鳴ったとき、頬を麻美に強くたたかれた。

 

唖然としてしまい、さっきまでの興奮が一瞬のうちに消えていく。

 

顔をたたかれたと言うことに怒る事よりも驚きの方が強かった。

 

麻美が僕のことをたたいた、いつも僕のことを兄のように慕っていた麻美が。

 

たたかれた場所をさわりながら静かに麻美の顔を見る。

 

泣いていた。

 

うつむきながらどこか悔しそうに。

 

「ねっ・・・・・姉さん・・・・・・・・・姉さんは・・・・・・・・・。」

 

僕はただ黙って麻美の言うことを聞いてることしかできなかった。

 

あの明るい麻美が泣いている、悔しそうに体をふるわせ、両手を握りしめながら。

 

このときはなぜこのようなことになったのか僕はまだわからなかった。

 

ただ僕は彼女のことをこんな形で泣かしてしまったことに罪悪感を感じていた。

 

「昨日・・・・・・・繁華街で先輩を見て私驚いた・・・・・・・・先輩久しぶりに元気みたいだったから・・・・・・

 

先輩姉さんが死んで以来元気なかったから、あの娘を見るまでどうして元気だったのかわからなかったけど。」

 

「そのあとずっと先輩の様子を見てた、だって先輩のあの娘を見る顔、姉さんに向けてる時の顔と同じだったんだもの・・・

 

でもそれでもいいと思ってた・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・でも・・・・・・・・・・・

 

今日行った場所・・・・全部姉さんと関係あるところばかりじゃない・・・・・・・・・・・・・・・

 

まさかあの娘を姉さんと思いこんでるなんて思わなかった。」

 

僕は後悔していた、麻美に全部知られていた事もそうだが彼女に言われて自分が愚かなことをしていると初めて本当の意味で実感した。

 

「でも私、・・・・先輩がそんな錯覚をするのもわかる、あの娘あまりにも姉さんに似すぎているもの・・・・・・・・・・・

 

でも・・・・・・・・・姉さんは死んだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・三年前に死んだのよ。」

 

 

 

辺りがすっかり暗くなり街灯が辺りを照らす。

 

車道からだいぶ離れているためか静かで辺りには誰もいなかった。

 

僕は目の前で泣いている麻美を見てただ立っているだけだった。

 

「姉さんは死んだ」

 

彼女に言われたこの言葉が一番きつかった。

 

麻由が生き返ったと言った僕の愚かな期待を崩されたと言うことではなく未だ麻由の死を受け止めていなかった事を責められたようで。

 

三年前僕はとうとう間に合わなかった。

 

僕が病院に着いたときにはもう麻由は死んでいたのだ。

 

彼女が死んだことは当然理解していた。

 

しかしその反面「信じられない」と言った気持ちもあった。

 

まだ僕は聞いていない、僕が彼女にした告白の返事をまだ聞いていない。

 

答えはわかっていた。

 

麻由が僕のことを好きだたのは知っていた。

 

しかしそれでも彼女の口から返事を聞きたかった。

 

確認として、これからの将来を変わらず一緒にいるための誓いとして。

 

今回その返事が聞けると思っていた。

 

麻由の記憶を戻せばあのときの返事を聞きそしてまた一緒にいられると思っていた。

 

しかしその考えは間違いだ。

 

当たり前のことだ。

 

こんな僕と違い実の姉を失った麻美はちゃんと麻由の死を受け止めている。

 

これが愛する者の死を看取る事が出来た者と出来なかった者との違いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

どれぐらい時間がったったのだろうか、僕と麻美はベンチへ座っていた。

 

麻美は少し落ち着いたのか僕の方に寄りかかり話をしている。

 

「私・・・・・・・先輩に謝らないといけないことがある・・・・・・・・・・・・・・・

 

姉さんが先輩に告白の返事を言わなかったの、私のせいなんだ・・・。」

 

「えっ!?」

 

「あのとき先輩が姉さんのことが好きだってわかってたから、先輩が告白する以前に私・・・・・・・・・・

 

姉さんに私が先輩のことが好きだって話したの。」

 

鳩が豆鉄砲食ったような顔をしている僕をみて麻美はおかしそうに話を続ける。

 

「知らなかったでしょう・・・・・・・・私の気持ち・・・・・・・・

 

私も姉さんに先輩をとられまいと必死だった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

だから姉さんが死んだとき、もちろん悲しかったけど、反面ほっとしてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

さっきあの娘を姉さんと思いこんでいたなんてえらそうなこと言ってたけど、何で私の事を見てくれないのって思ってた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

いやなやつですよね私って。」

 

「そんなことない・・・・・・・・・」

 

僕はこんなことしか言ってやれなかったが、正直に自分の気持ちを言ったつもりだった。

 

僕も麻由に対してはあんな行動をとったくらいだ。

 

麻美が僕なんかのことを好きでいてくれたとするならそんな彼女の心境も分かるような気がする。

 

 

 

「探しに行きましょう。」

 

そう麻美が言い出してきた。

 

「あの娘に悪いことしちゃった・・・・・・・・・・先輩はあなたのことを死んだ姉さんと・・・・・・・・

 

なんて言っちゃったから・・・・・・・・・・・・・・・あの娘が記憶喪失だって事は変わりないんだし・・・・・・・・・

 

探しに行きましょう、先輩。」

 

僕はうなずき麻由を二手に分かれ探し始めた。

 

麻由、彼女は僕のこと許してくれるだろうか。

 

謝りたい心の底から彼女に謝りたい。

 

 

 

麻美と別れ麻由を探し始めて数分程たった頃、雨が降り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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