今、何時頃だろう。
雨が激しく降る中僕はびしょぬれになりながら麻由を探していた。
彼女を死んだ麻由と重ね合わせていた僕、麻美にそのことを知らされて麻由は僕の目の前から姿を消した。
僕が悪い。
とにかく今は麻由を探さなくては。
謝ろう、今は麻由に謝ろう。
「季節を抱きしめて」ロングストーリー
「返答」 その6
作:主人公
麻由が去っていった場所の方角を目指し、麻美と二手に分かれ彼女を捜し始めてから二十分ほどたっただろうか、
薄暗い住宅街を僕は走っていた。
麻由・・・・・・・どこだ麻由。
もう必死だった、走りながらあたりに目を配らせ彼女を捜す。
息が荒れ体を雨で濡らしながら必死に麻由を探した。
冗談じゃないこんな形で彼女と別れてたまるか。
今は彼女に謝り今度こそちゃんと記憶探しを手伝ってやらなきゃ。
麻由のこともそうだけど僕の良心の問題だった。
「麻由・・・・・・・・・・・・何処行ったんだ・・・・。」
走るのにも疲れ、トボトボと僕は歩いていた。
麻由がこの辺にいるかもしれないなんて憶測だけでは何の手がかりにもならない。
こんなことで麻由が見つかるのだろうか・・・・・。
民家の塀に寄りかかり一息ついた。
雨がさらに勢いよく降り始める。
麻由も今頃どこかで濡れているのかな・・・・・・・・・・・。
パシャ・・・・・・・パシャ・・・・・・・・。
天を仰ぎながら泣きそうになる僕の耳に足音が聞こえる。
その方向へと顔を向けたときそこにずぶぬれになった麻由の姿が、僕のことをみて驚いている麻由の姿があった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
両手で口元を隠すようなそぶりで僕のことを見ている麻由。
「麻由!!」
大きな声で彼女を呼んだ僕はあわてて彼女の方へと歩み寄る。
「いやぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
麻由は叫びながら走って僕のそばから離れていく。
「待ってくれ・・・・・・麻由!!」
僕から逃げていく彼女を僕はあわてて追いかける。
チキショウ・・・・・・・・・・・・・チキショウ・・・。
あんなに僕を慕ってくれた彼女が僕から逃げている、そのことがとても悔しい。
しばらく彼女と僕の追いかけっこは続いたもののやはり男と女の体力差がでたのかすぐに麻由を捕まえることができた。
「いやぁ・・・・はなして・・・。」
麻由は振り向くと僕の顔をはたく、僕は彼女の両肩をつかむとそのまま塀に押しつけた。
必死に僕から逃げようとする麻由、しかし力一杯押さえている僕の腕力を女の彼女がふりほどくことはできなかった。
「ああっ・・・・・・・・・・・・・・・・・あああああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああああああ・・・」
麻由は泣いている必死に体を動かしながら声にならない声で。
「麻由・・・・・落ち着いてくれ・・・・・・・・麻由・・・・。」
どうにか彼女を落ち着かせようとするが麻由は泣き続け僕の胸元を両手でたたき始める。
ドンドン・・・・・・・・・・・ドンドン・・・。
か弱い手で弱々しく僕の体を責め立てながらたたき続ける麻由、彼女の泣き声を聞きながら僕は胸を痛めた。
麻由を・・・・あの明るい麻由を、こんなに傷つけた自分を責めた。
僕は麻由を抱きしめた。
力一杯抱きしめた。
麻由ははじめは激しく抵抗したものの次第に静かになる。
「ごめん麻由・・・・・・ごめん・・・・。」
僕も泣いた、彼女を抱きしめながら心から謝った。
彼女の両腕が僕の背中に回される。
麻由も僕のことを抱き返し泣いた。
しばらくの間僕たちは互いを抱きながら泣き続けた。
桜木公園、あの後僕と麻由はこの公園へと向かった。
麻由を探しに行くさい麻美との待ち合わせ場所に悲恋桜を選んでおいたのだ。
雨はすでにやんでおり、雲間から満月が顔をのぞかせる。
麻美はまだ来ていないようだ。
暗い、そして静かだ。
この時間になると当然公園にいる人なんて僕たち以外にいるわけもない。
悲恋桜は公園の奥の方に位置するため街灯がこのあたりは極端に少ない。
街灯よりもどちらかというと月明かりの方が僕たちを明るく照らしてくれた。
本来この時期になると桜の名称であるこの公園では花見をしに来る人たちでにぎやかになるのだが今日はあいにく雨だったためか辺りには場所取り用のござが泥まみれになってあちらこちらに敷かれていた。
いや雨のせいだけではないだろう、今年の桜は原因不明の病気・・・・・・・・・かな?よくわからないがそんなもんで皆
見事なまでに花を散らしてしまっていた。
ひとひらさえも花びらをつけている桜の木は目に入る限りではみることはできない。
月夜、誰もいない公園での夜桜見物、これで花が満開なら美しいことこの上ないかもしれないが。
丸裸の木々たちを目の当たりにすると一種の不気味ささえも感じられる。
悲恋桜、ここ数十年間一度も花を咲かしたことのないといわれている桜の木、この公園の一番の老木のことあってほかの桜の木に比べると明らかにでかい。
悲恋桜の前に麻由と立ったとき、
この桜の木はこの不気味な公園の中で僕たちを受け止めてくれるような力強さを秘めているような印象があった。
「麻美さんいませんね・・・・・・・・・・・。」
先に話しかけてきたのは麻由の方だった、この場所に着くまでのあいだ一言も話をしてくれなかった。
麻由が自分の両肩を抱きながらふるえている。
さっきまで雨に打たれていたのだから当たり前、このままだと僕も麻由も風邪を引いてしまう。
僕の家につれていくわけにもいかないし体をふくものもない。
早く麻美がきてくれるのを待つしかないが、僕も寒そうな麻由をただ見ているのもいやだったので彼女の肩を抱き僕の方へと引き寄せた。
上着か何かをかけてやりたいのもやまやまなのだがいかんせん僕の服も救いようのないほどにびしょびしょだった。
麻由もはじめは驚いたようだがすぐに僕に体をゆだねてくれた。
彼女の小さく柔らかい体が小刻みにふるえている、力強く抱くと麻由の吐息が僕の胸元にかかる。
暖かい、互いに濡れた服を着ているので麻由の体温はかすかにしか感じなかったが十分に感じられた。
「麻由・・・・・・・・・・・・・ごめんな・・・・・・・・・ごめん・・。」
僕は彼女を抱き寄せながら謝った。
さっきから謝ってばかり、しかし麻由の暗い表情をみると謝らずにはいられなかった。
ごめん、ごめん、何度も同じ言葉を繰り返す、もう何をいえばいいかわからなかった。
「私・・・・・・・・・・・・そんなに麻由さんにそっくりなんですか・・・・。」
僕の胸に顔を埋めながら麻由が語りかける、その表情は少し明るく声はどこか優しい。
「うん、いろんなところがすごく似てる・・・・・・・・。」
僕は素直に答える。
麻由は両手を僕の背中に回し力図よく抱きしめてきた。
「お兄さんひどいんだ・・・・・・・・・・私を麻由さんと重ねるなんて・・・・・・・・・・・・
私うれしかったんですよ、お兄さんに優しくしてもらって・・・。」
麻由が僕を攻めている、そのはずなのに明るい声で優しい仕草で、まるで僕を慰めてくれているようだった。
「でも、もういいです・・・・・・・・・・・・・お兄さん私のこと追ってきてくれたから・・・・・・・
いっぱい謝ってくれて、今は私のことをみてくれているみたいだし・・・・・・・・・・・・・・・。」
麻由は僕の腕から離れて笑いながら元気なそぶりをする。
「許します、許しちゃいます・・・・・だからお兄さんも・・・・・・・元気出してください・・・・・・。」
麻由が笑ってくれた、僕に笑顔を見せてくれた、それだけで救われた思いだった。
「ごめ・・・・・・・・・・・・・・。」
僕がまた謝ろうとすると僕の口元を彼女の人差し指が押さえる。
「だめですよ・・・・・・・もう謝っちゃ・・・・・・・・・・私もう怒っていないんですよ・・・・・・・・・・・・・・
それよりこれからも私の記憶探し、手伝ってくれますか?」
「もっもちろんだよ!!」
僕はうれしくなって大きな声で答えた。
麻由が笑う、そして僕も笑った。
しばらくして麻由は僕に右手の小指を突き出す、どうやら指切りみたいだ。
「明日も一緒に探してくださいね、お願いします。」
僕も指を出し指切りをしようとしたその瞬間いきなり強い風が吹いた。
髪が乱れ、手で整えていると麻由が何か驚いたように悲恋桜の方を向いた。
「麻由・・・・・・・・?」
僕も一瞬驚いた、麻由の顔がいきなり苦悩な表情を浮かべている。
何か様子が変だ、さっきまであんなに元気だったのに。
僕が彼女にふれようとすると麻由はあわてるように僕から離れた。
「どうしたんだ・・・・・・・麻由・・・・?」
悲しそうな彼女の顔を見て僕はあわてた。
「私・・・・・・・・・・・私・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやぁ・・・・・。」
「麻由!?」
麻由は再び僕の元から駆け出していった。
僕もあわてて彼女の後を追いかける。
どうしたと言うのだろうか、仲直りしたばかりだというのに。
さっきは麻由が僕の元を離れた理由がわかっていただけにまだどこか希望みたいな感じを持っていたが今は違う。
理由が全くわからない、なぜだ、なぜ僕のそばから離れていく。
彼女の今の行動の意味が分からないぶんどうしようもない不安が僕を襲う。
それどころかどことなく今の状況は不気味さも感じられた。
「いやぁ、来ないで!!」
公園の外に車道前にでた。
二人で車道を挟んだ状態、麻由は僕の方を向き叫んでいた。
「もういいです・・・・・私・・・・私・・・・・・・もうお兄さんと一緒にいられない・・・・・・・もうだめなんです。」
麻由が何を言っているのか僕にはわからなかった。
「話なら後で聞く、とにかくそこで待っててくれ。」
僕は麻由の元に行こうと急いで車道をわたろうとした。
今の僕には麻由しかみていなかった。
今は麻由を捕まえるそのことしか考えていなかった。
「お兄さん、危ない!!」
「えっ?」
麻由に言われて初めて僕は辺りを見渡した。
二つの強烈な少し黄色かかった光が僕の目に飛び込んでくる。
そして大きなブレーキ音。
ドッカッ。
「お兄・・・・・・・・・・・・・・・・。」
麻由があわてて僕をみる、不思議に音は聞こえない。
何かにぶつかったのか右手の方に押されるような衝撃が走る。
何もかもがスローモーションのように見えるにも関わらず僕の体は遠くにとばされる。
地面にたたきつけられた、何も感じない、体が動かない。
何か起きたのか理解できない、ただ僕は僕の方へと向かってくる麻由のことをみているだけ。
その後辺りが暗くなり何も見えなくなる、最後に僕が目にしたのは体中光を帯びて消えていく麻由の姿だった。
暗い、ここはどこなのだろうか。
僕は何をしている、どうしてここにいる。
自分が何をしていたのか考えをまとめようとするがなぜかうまく頭が働かない。
「お兄さん・・・・・・・。」
あれ、麻由じゃないか・・・・・・・・・・・どうしたんだろうこんなところで。
「どうしたんだい・・・・・・麻由・・・・。」
麻由はなぜか暗い顔をしている、どうしてなのか僕にはわからない。
「お兄さん・・・・・・・安心して、命には別状はないらしいから。」
何のことだろう?
「実を言うと私記憶が戻ったんです・・・・・・・・・それで気を取り乱しちゃって・・・・・・・・・・
ごめんなさい、私のせいで大けがさせちゃって。」
麻由が泣いていた、僕はあわててとりあえず彼女を慰めようとする。
「実は私・・・・・・・・・・・・・・・桜の精霊なんです・・・・・・・・・・。」
彼女が何をいっているのかわからない、というより言葉そのものが受け止められない。
知っている言葉、内容が理解できる話、理屈ではわかっているのだがなぜかわからない、理解できない。
麻由は寂しそうな顔をしながら僕の前から消えていく。
文字どおり消えていく、姿がそのまま見えなくなっていく。
「ごめんなさい、やはり夢の中じゃちゃんと伝えられないみたいです・・・・・・・・・・・・・・・・・・私・・・
理由あってもうお兄さんのところにいけません・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もう私のこと忘れてください・・・・・・・・・・・・・・・・。」
辺りが明るくなってきた。
「ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・・あなた・・・・・・・・・・・・・・・あえ・・・・・・・・て・・・・・
・・・・・うれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さよう・・・・・・・・。」
だんだん麻由の声が聞こえなくなってくる。
ドア、僕は暗い建物の中にいてドアが開いている入り口越しに麻由を見ている。
入り口のむこうは明るい、コンクリートの足場に鉄製の手すり、どこか高いところにいるみたいだ、
空が見えるその眼下には町並みが見える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
懐かしいなぜか懐かしい、僕はここを知っているそんな気がする。
麻由は手すりに手をかけ僕の方を見て笑顔を向けた。
目からは涙がこぼれていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
明るい、僕は何をしていたのだろう、何もわからない。
手元が暖かい、この暖かさなぜかすごく安心できる暖かさ。
麻美の声が聞こえる。
麻美の声が聞こえる。