目が覚めたとき僕は病院のベットで眠っていた。
個室らしい、ベットを囲むカーテンが引かれている。
部屋の外の方では両親の話し声が聞こえる、医者とでも話をしているのだろうか。
どうしてこんなところで寝ていないといけないのか、どうしてこうなってしまったのかわからない。
何か大事なことを忘れているような気がする。
「先輩!!大丈夫ですか。」
麻美の声が聞こえた。
顔を声のする方へ少し傾けるとそこに僕の手を握っている麻美の姿があった。
そうか麻美が僕の手を握っていてくれたのか。
僕の右手を優しく包んでくれる彼女の両手その小さな手のひらは柔らかくそして暖かかった。
「季節を抱きしめて」ロングストーリー
「返答」 その7
作:主人公
「はい、先輩、りんご・・・・。」
麻美が台所でリンゴを向いて持ってきてくれた。
実家、事故を起こして三日目僕は自分の部屋のベットの上に座っている。
あのときの事故で僕は右手を骨折したもののほかに対したけがはしなかった。
車と衝突したときうまい具合にとばされて他の部位はダメージを逃れたらしい。
さすがに衝撃を正面から受けた右腕は折ってしまったもののおかげで二日程度の様子見入院で退院する事ができた。
麻美から受け取ったリンゴに串を刺してほおばる、麻美はそんな僕のことを見ていた。
僕なんか見ても面白くないだろうに。
今僕の部屋にはベット以外に何もない。
テレビやらとにかくオーデオ部類は全部東京のアパートにある。
そのためか部屋に缶ずめ状態の今は暇で暇でしょうがない。
どうせ怪我しているのは右手だけなのだからどこか出かけようとも思ったが、
麻美に「しばらくは安静しててください」といわれ身動きできないでいる。
麻美がここにいるのも半ば監視なのではなかろうか。
ボーッとしながらリンゴを食べ続ける。
最後の一切れを食べ終わると僕はそのまま向かいの白い壁を見続けた。
別に壁のシミを数えているわけではない、考え事をしているのである。
病院で目が覚めた時から思い出そうとしていることが未だ思い出せないでいる。
何か大事なことを忘れているのは確かだった、しかしそれがなんなのか思い出せない。
病院で麻美が「麻由ちゃんはどこ行ったのかしら」なんて行っていたが何のことだったのだろう。
麻由ちゃん?何で麻美が麻由のことを"ちゃん"付けして呼んでいるんだろう。
どうしたもなにも麻由は三年前に死んだじゃないか。
麻美が僕に麻由のことを聞いてくると「何のことだ」と僕は答え、それっきり彼女はこのことに対して聞いては来なかった。
麻由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・なんか引っかかるな・・・・・・・・・・・・・。
「どうしたんですか先輩?」
麻美が僕の顔をのぞき込む。
「いや・・・・・何でもない。」
そういえば麻美はここにくるのがなぜか遅い、ここに来る前にどこかに行っているのだろうか。
「麻美・・・・・・・・暇じゃないか?」
僕がこう聞くと麻美は笑顔で答える。
「いいえ・・・・・・・・・・・・先輩と一緒ですから・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かわいいこといいやがる・・・・・・・・・・・・思わず照れてしまった。
僕は赤くなった顔を麻美に見られまいと開いている窓の方を向き外の景色を眺める。
部屋に入って来る涼しくどこか暖かな外の風が心なしか気持ちよかった。
麻由!!
僕が麻由のことを思いだしたのは次の日の昼頃。
なぜ忘れていたんだ・・・・・・・・・・・・・・・麻由・・・・・・・・・・・・・麻由・・・・・・・・。
麻由がいなくなった、事故の時以来僕の前から姿を消した。
焦った、とにかく焦った。
心の中で必死に落ち着こうとしてどうにか平常心が保てたのは着替えがすんだ後だった。
麻由がいなくなって数日が経過している。
とにかく今は手がかりが何もないしどうしたらいいかわからない。
しゃむらに外を探してみるか、右手はギブスがついている状態なのでバイク、自転車には乗れない。
車もしかり。
僕は何かないか頭の中で考えていた。
今はそれしか方法はなかった。
麻由がよく行くところは、悲恋桜か・・・・・・・・・そういえば麻由には僕の家の電話番号を教えておいたはずなぜ連絡をしてこない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そういえば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
いろいろと考えていくうちに僕は事故の時のことを思いだした。
気を失うとき、僕のところに駆け寄って来る彼女の姿・・・・・・・・・・・・・・・・
消えた・・・・・・・体中から光を出して・・・・・・
・・・・・いや彼女が光になったというのが正しいだろうか、とにかく彼女は、麻由は僕の目の前で消えた。
あれはいったい・・・・・・・・・・・・・・・・夢・・・・・・だったのだろうか?
その後この事がきっかけで気を失っていたとき見た夢のことを思い出した。
断片的にだが・・・・・・・・・・・・・・・桜がどうこうとか細かいところは思い出せなかったが
一番印象が強かった最後のところ、・・・・・・・・・・建物・・・・・・・・・・
どこかの屋上・・・・・・・そう高い建物その屋上・・・・・・・・・・・・どこかで見たことがあるような
懐かしい場所・・・・・。
そこがどこだか思い出せないが何となくこの町のどこかであることのような気はする。
僕は玄関に向かい靴を履く、はっきりはしてないが今はその建物を探すことにする。
ただの夢だった可能性の方が高い、しかし何も手がかりがない今の状態ではそんな曖昧な記憶でもすがりつくしかなかった。
いきおいよく玄関を開け外にでる、いざ麻由の元へ!!
「先輩!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・麻美。
玄関を開けるとそこには麻美が買い物袋を抱えて立っていた。
今日、両親がいないので昨日のうちにお袋が彼女に昼飯の世話を頼んでいたような気がする。
中身はたぶんその材料。
「どこに行くんですか・・・・・・・。」
キョトンとした顔で僕を見る彼女、僕は麻美になんて言えばいいかわからなかった。
怪我しているからだで麻由を探しに行く、しかも夢で見たことが頼りだなんて言えっこない。
麻美には今回の件でいろいろと迷惑かけたし・・・・・・・・・なんて言おう。
正直に言ったら今度こそ呆れられて嫌われるかもしれない。
しかし麻美は勘がいいのかそれとも僕が顔に出したのか、今の僕の心境を彼女は気づいたらしい。
「先輩・・・・・・・・・・・・・・正直に答えてください。」
すごみかかった彼女の顔を見て僕は正直に答えるしかできなかった。
「先輩しっかり捕まっててください。」
エンジン音とともに麻美の声が聞こえる。
僕は左手を後ろから彼女の腰に回し麻美にしがみついている。
時速六十キロといったところか、たいしたスピ−ドではないもの怪我した僕にとっては体感速度が強く感じられた。
今、僕はバイクの後部座席に乗っている。
バイク、スクーターではなくちゃんとした中型二輪、しかも赤色のクラシック。
麻美が運転するそのバイクに僕たちは二人乗りをして桜木公園へと向かっていた。
あの後、僕の言うことを一部始終聞いた麻美は僕が予想していたことと違う行動に出た。
ため息が聞こえた時は「嫌われた」と一瞬思ったものの、買い物袋を玄関においた麻美は、「そこで待っててください」
といい残し自分のアパートに戻っていった。
それから数十分後、麻美はバイクに乗ってやってきたのだ。
フルヘルメットをかぶって、ライダースーツを着ていたので初めは誰か気づかなかったが、
それが麻美だと知ったとき正直驚いた。
麻由を彼女のアパートにつれていったとき、駐輪場で見た赤いバイク、まさかあれが麻美のものだったなんて思わなかった。
いつ免許取ったんだろう・・・・・・こいつ。
家を出る前に思い出したのだが僕が夢に見た麻由がいたところ、
あそこはもしかしたら僕が子供の頃初めて麻由と会った場所なのかもしれない。
そう思い僕は桜木公園に向かうことに決めた。
この公園の周りには高い建物が多く存在する。
ほとんどが今はもう誰もいない取り壊し寸前の住宅ばっかりだ。
僕と麻由と子供の頃出会った場所が桜木公園の近くであることは確かだと思う。
建物から見下ろす眼下に桜がいっぱいあったのを覚えている。
そんなに桜が集中しているところはこの町でも桜木公園ぐらいなものだ。
とにかく僕は片っ端から建物を上り調べることに決めた。
麻由、絶対に見つけてみせる。
日が暮れ始め辺りが暗くなってきた。
「ここにもいない・・・・・・・・・・。」
僕と麻美は十軒目の建物を調べた後だ。
まだ麻由は見つかっていなかった。
どこにいるというのだろう、こうも見つからないと希望も薄れてくる。
確かにこの付近のはずなんだ、思いでの場所はどこかの建物の屋上のはず。
いかんせんちゃんとした場所は覚えていない、時間だけが経っていく。
「先輩・・・・・・・・・・もしかしたら方角・・・・・・・ちがくありません?」
いらだつ僕を見て麻美がこんなことを行って来た。
「先輩の行っている場所、もしかしたら公園から西の方にあるんじゃないんですか・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今思い出したんですけど、夕日が落ちているとき、公園・・・・・・・
建物の屋上から・・・・・・・・太陽と反対の場所にありませんでしたっけ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そういえばお前・・・・・・・・・・お前も子供の頃あそこにいたな・・・・・・・・・・・・。」
僕も思いだした、麻由だけじゃなく麻美もあのころ僕と一緒にその場所で遊んでいたんだっけ・・・・・・・・。
間抜けな話だ。
もし麻美が言うことが正しければ、今、公園から東の方にいるから目的の場所は全くの正反対ということになる。
僕たちは急いでバイクに乗る。
「麻美ーとばしすぎー。」
バイクはものすごい勢いで西に向かった。
懐かしい、その建物を目の前にしたときいきなりそう思った。
古い十五階建ての高層住宅、辺りは雑草が伸びきり会階段入り口にはベニヤ板がかけられていた。
取り壊し寸前の建物、数ヶ月前まで人が住んで生活感あふれていただろうその建物は今は静まり返り日も落ちて辺りが暗くなってきているのも重なって不気味さをかもし出している。
当然電気なんて供給されているわけもなく階段がある建物の中は真っ暗だった。
階段を登る古い旧型建築物ではあるがエレベーターは完備されている、動かないけど。
さすがに疲れて駆け上がる気にはならないが心なしか早足になる。
螺旋状のコンクリート制の階段周りは壁に覆われておいて思った以上に暗い。
唯一外向きの壁にある小さな曇りガラスから差し込んでくる外の薄暗い光がこの空間を照らしている。
「・・・・・!!麻美・・・・。」
麻美が僕の腕にしがみついてきた。
怖いのだろう、僕だって正直怖い。
もし彼女が一緒じゃなければここを上ったかどうかわからない。
ここだここは間違いなく僕の思いでの場所、麻由と初めてあった場所だ。
一段一段階段を上っていくと懐かしさとともにあのころのことが思い出される。
あれは僕が小学校には行ったばっかりの頃、僕は高いところに上りたくてこの建物にきた。
なぜ高いところに上りたかったのか、理由は単純なもの。
あの頃両親に桜木タワーにつれていってもらい高いところから町並みを見るのが好きになっていた。
しかし子供のこずかいで展望タワーの入場券が買えるわけもなく、この建物に登ることにしたのだ。
繁華街のビルというてもあったが、ビルから出てくる多くの大人に叱られそうな気がしてビルに登ることはできなかった。
そして僕はこの建物の屋上で麻由と出会ったのだ。
子供用のオーバーオールをきていたと思う、髪型は今の麻美みたいな感じ。
麻由がこの場所にきた理由は桜を高いところからいっぱい見たかったといったものだった。
一人屋上から景色を眺めている僕のところに駆け込んできた彼女、それ以来意気投合してそこで遊ぶようになった。
その後、麻美をつれてきて当分の間はそこが僕たちの遊び場、他に誰も来ないし好きな風景を見ながら三人で遅くまで誰にもじゃまされないうってつけの場所だった。
その後そこに住むおばさんに怒られてここに来ることを禁止にされた。
それ以来ばったり行かなくなった。
屋上のドアの前にきた。
鉄製の表面がさびたドア辺りは真っ暗で麻美の姿も見えないドアの隙間から射し込んでくる光がかろうじてドアの形を形取っていた。
ノブに手をかける。
僕は祈った、もしここにも麻由がいなかったらもうお手上げだ。
深呼吸をしノブを回す、そして覚悟を決めてドアを押し開けた。
ヒョー・・・・・・・・・・ビヒョウーウー
ドアを開けた瞬間外から強い風が入ってきた。
一歩外に足を踏み入れる。
静かだった。
静かだと言っても音が聞こえないわけではない、
屋上独特の風の吹く音、その風に乗って電車が走る音や車の音がかすかに聞こえてくる。
初めに目に飛び込んできた景色は空だった。
東の空、すでに薄暗くなり点々と星も見える、雲は反対側から差し込む夕日で赤く染まっている。
すぐしたからは桜木公園が顔をのぞかせている。
公園の周りのは似たような建物が集中しているもののここから見る風景にはうまい具合に建物がよけるかのように存在せず、
遠くの地平線まで見ることができた。
久しぶりに見る風景、あの日と変わらないいつの間にか忘れてしまっていたが麻由と子供の頃遊んでよく見た思いでの風景がそこにあった。
そして今、僕の目に前で手すりに手をおき驚いた顔で僕たちを見ている一人の女の子。
麻由がそこにいた。