BLOOD THE LAST VAMPIRE

「闇の王編・終わらない闘い」  

    ―最終話―

小夜の身体を壁に押し付けたまま、カッツが口を開く。

「フフフッ…嬉しいよ小夜、ようやくあなたと一つに成る時が来たのだ。

 あなたの力を得て、私は最強の翼手となるのだ。

 そして、この地に翼手の王国を築くのだ!」

「…クッ、ふざけるな…」

小夜は、自分の身体を押さえ込んでいるカッツの手を握り、目一杯力を込める。

「フハハハハァー!!」

「!?」

「素晴らしい!その力が、私の物になるのか。」

――バンッ!!

昇降口の扉が乱暴に開かれ、そこから何者かが飛び出してきた。

「カッツー!!」

右腕を翼手化させた瑠璃亜が、カッツに殴りかかっていた。

しかし、無情にもその拳はカッツに受け止められていた。

「ほう、正気に戻ったか?

 残念だよ…君には死んで貰おう!」

「ハァ――!!」

瑠璃亜に気をとられている隙を突き、小夜さんの刀で、小夜さんを取り押さえている

カッツの腕を切り落とした。

「グァァァー―!!」

悲鳴を上げると共に、カッツは僕に反撃の拳を振り下ろす―

「小夜さん!」

僕は、寸での所でそれを避けカッツとの距離を取り、刀を小夜さんの方へ滑らせた。

小夜さんは刀を拾い上げると、ゆっくりと構える。

「…これで、終わりだ。」

その言葉と共に、小夜さんは一気にカッツとの間合いを詰めた。

それは、一瞬の出来事だった。あっけないと思えるほど、一瞬の…

そのあまりに鋭い太刀筋に、成す統べなくカッツの身体は二つに切り裂かれていた。

「ウゥッ…グッ…小夜…例え私を倒しても…

 …私の蒔いた種は、いずれ芽を出す…そして…グハッ…」

「…もう、休め。お前は、長く生きすぎた…」

そう言って、カッツを見つめる小夜さんの目は何故だか、とても寂しそうに見えた。

「…これで、終わったんだよね?」

瑠璃亜は僕の手を握り、尋ねてきた。

「いや、まだ終わってなどいない…。

 その女の中にも、カッツの血が流れている…」

そう言って、小夜さんは僕達の方へゆっくりと歩を進める。

「待って!待ってよ、小夜さん。

 瑠璃亜の心は、まだ死んではいないんだ。」

僕は、瑠璃亜をかばうように瑠璃亜の前に立つ。

「確かに、今は未だ心は残っているようだが…

 いずれその女も、翼手になる日が来るだろう…

 その時、お前にその女が斬れるのか?」

「そんなの、解からないよ…

 でも、その時が来るまで僕達は一緒に生きていきたいんだ!!」

「…どけ。その女が翼手として目覚めてしまっては、手遅れになる…」

「どう言う事?」

「その女を殺す事の出来ないお前の血を飲み、カッツ以上の力をつけた翼手に…

 新しい…“闇の王”として君臨する事になる…」

「でも、このまま目覚める事無く、人として生きていけるかもしれないじゃないか!」

僕は、瑠璃亜を守ろうと必死に小夜さんに食い下がった。

「…もう、良いよ…ありがとう。」

「瑠璃亜…」

「このまま生きていたら、あたしの手であんたを殺していまうかもしれないなんて…

 そんなの、だめだよ…耐えられないよ…

 お願い、あんただけでも…あたしの分も生きて…」

瑠璃亜は、涙を流しながらも、無理矢理笑顔を作り僕に微笑む…。

「…さぁ、どけ…」

「…わかったよ、小夜さん…でも、僕はどかないよ。

 瑠璃亜を斬るなら、僕も一緒に斬ってよ!」

驚いた表情で、瑠璃亜は僕を見つめる。

「…なに、馬鹿なこと言ってるの?

 あんたは、生きなきゃだめなんだよ…」

「僕にとって君のいない人生なんて、死んでいるのと変わらないよ。

 もう、君を一人にはしないって決めたんだ。」

「……。」

瑠璃亜は、ただ無言で僕の胸で泣きじゃくった。

「…小夜さん、僕の最後のわがままを聞いて下さい。」

「……わかった。」

そして、小夜さんは刀を振りかぶるのだった…

 

 

 

 

 

Epilogue

―あれから半年の月日が流れた

僕は繁華街の交差点に立ち、道行く人の流れを見つめている。

この何の変哲も無い、人々の日常を守っていかなくてはならない。

そう、僕は翼手達を狩る“狩人”なのだから…

例えカッツが死んだとしても、この世から翼主がいなくなったわけではないのだから…

チリリーン…

「!?」

鈴の音…僕は刀の入っている製図ケースに手を伸ばした。

「…ねぇ、どうかしたの?」

僕の足にもたれながら、座りこんでいた少女が声をかけてきた。

「…ああ、鈴の音が聞こえたような気がしたんだ。」

「そう?あたしには、きこえなかったな…。」

「そうだね、瑠璃亜に聞こえていないんだったら、僕の聞き間違いかもしれないね。」

あの時、小夜さんは僕達を斬らなかった。

翼手の血が流れながらも、人の心を失わない僕達をもう少し見ていたいからだそうだ。

『…お前達の選んだ道は、死ぬ事よりも辛いかもしれないぞ…』

そう言って、小夜さんは刀を僕の方へと差し出した。

『…これはお前が持っていろ…もしもの時は、それで…』

「な〜に、考えてるの?ボゥっとしちゃって。」

「…小夜さんが、僕達を斬らなかった理由かな…」

「…そうだね。あたし達がこうして生きているのも、あの子のおかげだもんね。

 それで、あんたはどう思ったの?」

「…うん。多分だけど…人の心かな。」

「心?」

「そう。人を信じる心。人を愛する心。

 その心が、翼手の血に勝てるのか見たかったんだと思う。」

「…あたしは、違うと思うな…」

「!?」

「…最後にカッツを見ていた時の、あの子の顔を見て思ったんだ。

 あれは、母親が子供を見ている時の目だよ…」

「…母親の目?」

「そう。カッツには、あの子の血が流れていた。

 あの子の血を受けて、翼手となったカッツはあの子にとっては我が子のようなもの

 だったんだよ…そして、あんたのことも…」

「…僕の事を?」

「な〜んてね。あくまでこれは、あたしの推測だって。

 難しい事は、もういいじゃない。

 あたしとあんたは、こうして生きてるんだから。

 半年前に、嫌な事は全て終わったんだから。」

「違うよ、瑠璃亜。」

「?」

「終わりなんかじゃないよ。

 あの時から、僕達の人生は始まったんだよ。」

「始まり?」

「うん。僕達が、二人で生きていく人生はあの時から始まったんだ。」

「…うん、そうだね。一人の時はあの時でお終い。

 これからは、ずっとあんたと一緒だね。」

「これから先、何があってもずっと君の傍に居るよ。」

僕は瑠璃亜をそっと抱きしめた。

瑠璃亜も僕を抱きしめてくれる。

この温もりがある限りは、この先どんな辛い事があっても乗り越えて行けるだろう。

また、カッツの様に闇の王と名乗るものが現れたとしても。

この命が尽きる時まで、僕達は闘い続けるだろう…。


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